今回お伝えするのは、トラブルが予測できたはずなのに放置されてしまった「外壁塗装」や「防水工事」についてです。
トラブルが予測できるのに何も手を打たずに工事を終えてしまうと、トラブル後の補修工事はかえって大変なものになってしまいます。
私が見たものの中から分かりやすい事例を3選、紹介します。
プロであれば、事前にトラブルを予測できたはずのものばかり。
信頼できる業者を選べるようなポイントについても、ご紹介しています。
ぜひ参考になさってください。
事例その1:外階段の塗料はがれ
まずは、こちらの階段部分をご覧ください。
たまたま通りかかった横浜にあるマンションの外階段防水なのですが、ステップの塗料がどの段もはがれ、下のステップがむき出しの状態です。
これは踏面部分のコンクリートとステップ部分のタイルを同じように施工してしまったがために起こっている現象です。
実はこうなってしまうと、この次にできる工事は限られてしまうんです。
ステップ部分ははがれていても、コンクリートである踏面については塗料が残るため。
再塗装するためには下地を均一にしなければならず、旧塗料をすべてはがす必要があるのです。
旧塗装をはがすためには膨大な手間と日数がかかるため、費用も膨大にかかります。
この場合、費用を抑えて補修するために「長尺シート」というものを使って、階段の上から覆ってしまう工事とするのが一般的です。
長尺シートを貼り付ける場合、多少下地に段差があってもボンド(接着剤)で調整ができます。
そのため、ある程度下地の塗料を剥がしてカチオン系の材料で補修ができます。
ただし、長尺シートを一度張り込んだら、今後はもう長尺シートを貼りなおす以外の選択肢はありません。
現在マンション等は、長尺を場合によって20年使用することになります。
通常の塗装よりも金額が高額ですので、その分今後は出費が多くなってしまうのです。
では安く階段を再塗装するために、ステップ部分がはげないようにするにはどうしたらよかったのでしょうか?
それは塗装する際にステップ部分に何重にも養生をして、タイル部分には塗装をしないようにすればよかったのです。
このひと手間をかければ、再度塗膜防水をすることはできましたし、部分施工も可能となったでしょう。
もしくは、カチオン系の素材でタイル部分に傷をつけ材料の喰いをよくしてから塗るのも一つの手でした。
しかし、ステップ部分の細やかな養生やはがれにくくするための下準備は手間がかかるため、余計に費用もかかります。
このマンションの階段の塗装が、どのような経緯で行われたかは分かりません。
ですが、ステップに塗った塗料がはがれることは塗装時に分かっていたはずです。
確かにその時は費用を安く上げて塗れたかもしれませんが、今後は再塗装ができない分トータルとしては費用がかさむことになるでしょう。
事例その2:陸屋根塗装のパラペットを防水しなかった場合
二つ目に紹介するのは、こちらのお宅です。
屋根のタイプが陸屋根の家なのですが、なぜかパラペットと呼ばれる屋根の立ち上がり部分に防水処理がされていませんでした。
パラペットの上に、壁側の透湿防水シートと笠木がのせてあるだけで、笠木や透湿防水シートの隙間からパラペット部分に水が浸入し、木部に水がしみ込み放題の状態です。
また雨漏りが起こる原因の一つでもあるのですが、「毛細管現象」という細い隙間に水が逆流して入りこんでしまう現象も起きていたことで、家中に水が回ってしまっていました。
そのため、こちらのお宅では家の中に多数の黒カビが発生していたのだそうです。
現在であれば、パラペットの防水処理は法律で定められています。
法律で定めるくらい、必ずしなければならない処理なのです。
それなのに、なぜ新築時に防水がされなかったのか、そして宅地建物取引主任者はなぜチェックした際に見逃したのか……。
理由は分かりませんが、こればかりはお客様には確認もしようのない欠陥でした。
通常パラペットは木材でできていますので、雨漏りの原因になりやすく、必ず防水処理をします。
さらに優秀な職人であれば、あらゆる可能性を検討して水抜きなどを作ることも。
今回お客様からのご依頼は、「とにかく雨漏りを止めたい」とのことでしたので、塗装職人では苦肉の策として強硬手段を取りました。
パラペット部分に、防水処理を施す工事をすることにしたのです。
別の記事ですが、パラペット部分の処理が悪かったため水漏れを起こす場合は他にもあります。
あわせて読みたい
なぜパラペットに防水処理を施す工事が強硬手段なのかというと、すでにパラペットの木部や家の内部には水が浸透しているため。
今この段階で水の侵入口をふせぐことが、次のトラブルを引き起こすかもしれないのです。
新築時は、まだパラペットの木部にも家の内部にも水がしみていないので防水処理を施すことが可能なのですが、今の家の状態はすでに水が浸入して何年も経ってしまっています。
しかもお客様宅は、ジョリパットの家でした。いわゆる呼吸する家です……。
それゆえに、余計に予測がつきませんでした。
もしかすると、塞いだパラペットの上部が水の侵入口が排出口になっているかもしれませんし、出口が無くなった水はどこかで溜まってしまうかもしれません。
防水を得意とする職人でも、こうなってしまっては予測がたてられないのです。
お客様には、パラペットに防水処理を施すと予測つかないトラブルが起こるかもしれない状況を説明した上でご了承をいただき、今回は工事をすることとなりました。
工事の内容は以下です。
- 雨漏りを止めるためにまずは笠木をはずす
- パラペットの上部にガラス繊維の骨材を敷く
- 含浸(薬剤を圧入し硬化させて隙間を埋めること)させた後にマット樹脂で固めて防水層を作る
ユニットバスなどに使われるFRP浴槽と同じ原理と考えて頂ければ、想像しやすいかもしれません。
その後さらに塗装をし、工事は終了。
塗装職人として、雨漏りを止めるために全身全霊をかけて工事をしました。
しかしどんなに技術を注ぎ込んで雨漏りを防ぐ工事をしても、一度トラブルが起こった建物は、もう元のなにもトラブルがなかったころには戻りません。
今後こちらのお客様は、いつ今回の工事による副作用が起こるかと気にしながら、過ごさなければならないのです。
それでも、家に発生する黒カビによる健康被害に怯えるよりはましだとおっしゃっていました。
こちらはFRP防水の施工動画です。
事例その3:初期に手を打たないことで悪化するタイル壁
三つ目にご紹介するのは、この建物です。
これは川にかかる水門部分にある管理事務所なのですが、注意して見ると屋根部分にあたる斜壁のタイルが滑落しています。
しかも他の部分を見ると斜壁だけでなく、いたるところで歯抜けのようにタイルが剥がれ落ちているのがお分かりになりますでしょうか。
タイルに入ったクラックから雨水が壁の中に入り込み、タイルが持ち上げられ滑落したのだと思います。
もしも斜壁の滑落が確認された時にすぐ対処していれば、ここまでの状態にはならなかったでしょう。
では、なぜこんなにも放置されているのでしょうか…?
それは滑落したタイルが、建物の下に流れる水の中に堕ちるだけだからではないかと、僕は思います。
川の中にタイルが落ちるだけなので、第三者災害になる可能性はかなり少なく、それゆえに放置されているのではないかと。
数か所のタイルの滑落であれば、100万円くらいで補修ができる内容だったかと思います。
しかし放置された今では、斜壁だけでなく壁面や窓枠などにもタイルの滑落がみられますので、かなり壁の中に水が回っているのでしょう。
とてもではありませんが、工事費100万円では収まりません。
タイルが滑落した時に対処していれば…それよりもさらにさかのぼって、そもそも滑落しないように施工時に処理を施してあればと思います。
自治体が住民から集めた税金を使用して施工した建物のはずなのに、あまりにもお粗末な状態で悲しくなりました。
こちらはタイルの補修工事の動画です。
あわせて読みたい
このようなトラブルを起こさないための業者選びのポイント
今回ご紹介した3つの事例は、どれも予測できたにもかかわらず、手を打たなかったことによってトラブルを引き起こしているものばかりです。
僕は同業として大切なことは、施工によって起こる悪い状況を「カムアウト」することだと考えています。
残念なことに、塗装工事の良い点だけ伝えて、悪い点に関しては何もいわない業者は多くあります。
でも塗装や防水工事をすることで起こる良い点の裏に必ずある悪い点もお伝えすることで、はじめてお客さまも家の状態を把握し予防することができるのです。
そのため業者は、正しい知識と経験の裏付けから工事の方針を検討したうえで、お客さまには良いことも悪いこともしっかりとお伝えすることが大切です。
最後におまけで、壁に施された小さな水抜きパイプを紹介します。
この外壁を施工した職人は自分の施工技術にうぬぼれず、外壁の防水工事後に起こるあらゆる水の侵入にそなえてこうした水抜きパイプを取り付けました。
この水抜きパイプを取り付けた職人の工事のように、トラブルを予測し将来に備えれば、今回紹介した事例はどれも最小限にトラブルを抑えられていたはずなのです。
塗装や防水には、良い点もありますが必ずそれに伴い悪い点もあります。
悪い点と向き合って、初めて将来起こるトラブルと戦えるのです。
やるべきことをやる業者を見極める方法として、良いことも悪いこともしっかりと伝えてくれるかどうかの確認することをおすすめいたします。
このブログをご覧の方は、塗装や防水の正しい知識を学び、そして悪い点も隠さずに話してくれる信頼のおける塗装業者を見つけて下さい。
そうすることで、家のトラブルの早期発見・早期補修が可能となるのです。