塗装工事によって家を保護するのは塗膜です。
もちろん「うすい塗膜」より「厚い塗膜」のほうが、耐久性があるのは言うまでもないですが、それぞれのできあがりは工事の仕方で変わってきます。たとえば、「モルタル」のカベに使われる弾性塗料というものがあります。上塗り塗料にもありますし、下塗り塗料では「フィラー」、「サフェーサー」などがあります。
この塗料の缶を開封すると、マヨネーズのような「ボッテリ」とした、塗料というよりも粘土にちかいものが顔をだします。
カベは大きく分けて、2種類に分かれます。
「サイディング」、それ以外のセメントなどを使ったカベを「モルタル」と言います。
私は自分のお客さんに対しても、缶を開けたときのようすを見てもらっていますが、この粘土状を見ると、ほとんどの人が驚きます。塗料メーカーの規定としては、およそ塗料のおもさに対して1割程度を限度として、このボッテリ状態の塗料に水をまぜあわせ、ある程度うすめた状態でぬりに入ります。
実は、この「ある程度うすめた状態」というのが問題になるわけですが、水を多く入れて必要以上にうすめすぎると、塗料のもつ性能が著しく低下します。
性能とは、「よごれ」、「カビ」、「ヒビ」の防止など、さまざまの機能のことを言いますが、どんなに最高品質の塗料でも、性能うんぬんというよりは、ただの色付けになってしまう可能性が高くなります。
わかりやすくたとえると、水を多く入れたサラサラの状態が「もんじゃ焼」。ドロドロが「お好み焼き」。サラサラのもんじゃ焼状態で塗っても塗膜に厚みはつかず、長もちする工事にはなりません。
せっかく塗料選びに苦労をしても塗料の薄めかたの問題で品質がものすごく低下してしまうことになりかねません。前回もお話したように、薄めすぎの工事が少なくない背景には、人件費の問題があります。塗料をサラサラ状態で塗れば、スムーズに次から次へと塗ることができます。転がすローラーもすばやく塗れます。
「ドロドロ塗料」は、手に「ズッシリ」重しをつけて塗る感覚です。
作業時間と仕事量に倍ほどの大きな差が生じます。モルタルカベにも、ツルツルとした模様があります。これは非常に塗料の使用量を多く使います。
その一方でこちらのようにツルツルした外壁もあります。
もし、ザラザラで凸凹の高低さが激しい模様のモルタルの場合だとしたら、サラサラの塗料とドロドロの塗料では、手間時間とも2倍~3倍ほどちがってくるでしょう。
詳しくは下の記事を読んでみてください。
「ドロドロの塗料」では、家一周塗り終わる頃には、かなり体力を消耗します。
このように薄めすぎの問題は、人件費のほかに塗料の量が少なく安くあがります。
たとえば、「10缶150キロ」使用しなければならない塗料が、「5缶75キロ」で済んでしまうということです。使用缶数を少なくすれば業者にすれば総合的に安く上がります。
単純計算でいけば塗膜の厚さは半分になります。
塗装工事の場合、最終的に手元に残るのは塗膜だけです。その塗膜に対して高い工事費用を支払うことになります。システムバスやシステムキッチンなど、塗装以外のほかのリフォームは形が残る商品なので、うすめ過ぎということはなく、部品が欠ければ不具合が目に見えて生じるのはあたり前です。
でも、部品の欠損とおなじうすめすぎは、目に見えません。目的はあくまでも「塗膜」を作ることです。
塗膜の厚さが半分になれば、ほかの作業の「足場」・「養生」(サッシなど塗らない部分をビニールで覆う)の費用も無駄にされているのとあまり変わらなくなります。
工場のラインで、ベルトコンベアーを流せば作っていけるような、人の心が関わりにくい商品とちがい、これほど想い1つで商品価値が左右されるものは、少ないのではないでしょうか。
キレイになることだけが「高品質で価値がある」と勘違いされることも多い塗装ですが、塗装工事としての「品質と価値」は、塗膜の厚みでもあります。
何が怖いかといえば、うすめすぎの工事もキレイに仕上がって見えてしまうことです。「工事前」「工事後」という写真もよくありますが、それこそ変わりばえしないほうがおかしいのです。
私も作業中にとった工程ごとの写真を、参考程度に何十枚と渡すこともありますが、色が変化していくようすを確認できても、写真から塗装の品質を判断することは不可能です。
あくまでも塗装の質は、きれいに見えることだけではありません。今後はそういうことも注意しながら、頭に入れてもらいたいですね。
ちなみに弾性塗料以外の場合は、粘性が低くなります。でも水のようにサラサラまではなりません。
見積書では塗料の種類のグレードばかりしか伝えない業者さんもいますが、それはあまり都合がよろしくないという部分が大きくあります。
なので、消費量や塗料缶数のことも必ず聞いておくべきです。そうすることで、せっかく高級な塗料の性能が無駄になることはありません。
ぜひ塗料の薄め方である「塗布量」にも目を向けて業者選びをしてください。