今回はビルの防水工事について、二つの事例をご紹介します。
僕は営業であるとともに防水工事の職人だったので、これまで何十年もの間にたくさんの防水工事をみてきました。
にもかかわらず、いまだに毎回工事の際に驚かされることがあります。
それくらい、雨漏り原因と防水工事の因果関係は複雑なのです。
今回紹介する二つの事例のうち、一つ目は分かりやすい雨漏り原因についてですが、二つ目はこれまた驚かされたケースです。
本来は10年は持つはずの防水工事が、質の悪い工事で5年程度で雨漏りが発生、工事を3度も繰り返すことになってしまったというお客様。
3度目の工事で弊社を選んでいただき私が担当したのですが、屋根の状態がありえないものだったのです。
その事例のまえに、まずはわかりやすいケースについてご紹介しましょう。
壁のクラックから原因がわかるケース
こちらの写真ですが、壁にあるクラックから「錆汁」と「エフロレッセンス」と言われる白い液が出ていますね。
これらの現象から、壁の中に水が入り込んでしまっていることがわかります。
錆汁が出ていることから、壁のひび割れから水が入り込んで、壁の中にある金属のさびが流れ出ていることがわかります。
エフロレッセンスも同じく、壁の中に水が浸入してモルタルやコンクリートの中の水酸化カルシウムが水に溶けて壁の外に染み出したことが原因です。
その液体が蒸発する際に空気に触れて炭酸カルシウムになって、白華することで発生します。
つまりこの錆汁とエフロレッセンスが発生しているということは、壁の中に雨が入りこんでいることがわかるため、雨漏りの原因として特定しやすいのです。
もちろん、工事をする際には壁を剥がして、予測通りの原因であるか確認してから補修工事を行います(壁に施す防水工事は職人の流派によってやり方が違う場合があります)。
それでも、これらの現象が出ている場合は、比較的分かりやすい雨漏りの原因ということができます。
過去に行われた工事が、杜撰であった事例
二つ目に紹介する雨漏り原因は、本当に驚かされた事例です。
こちらのお客様は10年以上雨漏りに悩まされ、これまでに2回の防水工事をされていました。
2度の工事にもかかわらず雨漏りが発生していた原因について、結論はこれまでに塗り重ねた防水材です。
高額な防水材を選んで実施された防水工事でしたが、むしろそれこそが雨漏りを引き起こしてしまったのです。
どういう原因で長年の雨漏りが起きてしまったのか、詳しく説明します。
お客様の屋上防水は、築10年で一回目の防水工事をしました。
防水工事をすると、一般的にはその後10年は防水工事をせずに(TOPコートを塗り替えるなどをして10年など、条件があります)すごせるはず。
それなのに、一回の防水工事後5~6年で雨漏りをするようになってしまったのだそうです。
仕方なしに二回目の防水工事を行ったのですが、今度も5年ほどしか持たず雨漏りが再発したのだとか。
本来であれば1回で済んだ防水工事を、2回も行ったのにまだ雨漏りがおきているのです。
施工前の写真を見て頂くと分かるのですが、屋上のコーナーの部分が、ゴムシートがトランポリンのようになってしまっています。
ここは本来壁の角度に沿って90度にシートが貼ってあるべき箇所なのですが、突っ張った異常な状態に。
理由は様々なことを考えられますが、まずは防水面を切り開いて状況を確認することにしました。
ただし屋上の防水面なので、あまり大きく開けてしまうと更なる雨漏りを引き起こしかねません。
まず、工事の初日に持ってきた資材で仮防水ができる状態かどうかチェックします。
そのうえで防水シートを、お豆腐のパックよりも少し大きい程度の大きさに切り開いて慎重に確認しました。
防水シートを剥がしてみると、防水材は全部で3層あることが判明。
しかも、全部違う防水材で施工されていました。
この写真に写っている一番下の層の黒いものがアスファルト系の防水剤、2層目が塩ビ、一番上がゴムシートとなっています。
実は、この「全て違う防水材で工事をしている」ということは、基本的には防水工事としてはありえないことです。
問題点としては、防水材にはJIS規格があるのですが、このJIS規格でいうところの伸び縮みが違う素材が塗り重ねてあったこと。
なぜ伸び縮みが違う素材ではだめなのかというと、全て伸び率が違うことで下の防水材に上の防水材が引っ張られてしまうためです。
その結果屋上のコーナー部分がトランポリンのように突っ張った状態になっていたのでした。
接着剤で考えて頂ければ分かりやすいかと思うのですが、接着剤には金属に接着するタイプのもの、木材に接着するタイプのもの、陶器に接着するタイプのものなどがあります。
防水材も接着剤と同じで、それぞれ建築時に屋上に施工した防水材に対して合う防水材、合わない防水材があるのです。
ですので、通常防水材を重ねる際は、元に貼ってあった防水材と同じものを使用することが多いです。
もしも合わない防水材を使用する場合は、オプション(緩衝材等)を入れて施工することもあるのですが、今回のお客様宅の場合は、そのオプションを使った形跡もありません。
つまり、合わない素材の防水材同士を直貼りしているだけなのです。
このことは、職人をしている人間であればあたりまえの知識なので、なぜこのような状態になったのかは分かりません。
推測するに1回目の防水業者、2回目の防水業者ともに下地の状態を無視して、自分勝手に得意な防水工事をしただけ…ということなのかな?と。
ただこの状況から、本当に職人だけが悪いのかは分かりません。
職人が自分の得意な防水工事を押し付けるタイプの人だった場合もありますが、会社が高い防水工事を売りつけたくて、職人はそこに従うしかなかったという場合もあるからです。
会社や営業から「この防水工事をやるように」と言われてしまえば、職人としては仕事を無くす覚悟をしてまで異を唱えることができません。
今回のこの2回の防水工事もどうしてこうなってしまったかはもはや闇の中ではあるのですが‥。
ともあれ、切り開いてみたことで、ようやく雨漏りの原因が見えたのでした。
雨漏りの補修工事は、医者の手術と同じだと思います。
病院でもMRIなどの高い検査をして、原因を見つけたりしますが、結局MRIだけでは見つけられず、触診や問診、そして手術して開けてみたことで初めて本当の原因が分かります。
雨漏りの補修工事も同じで、サーモグラフィーや、目視で原因を探りますが、結局こうして開けてみないことには原因をみつけることはできないのです。
結局今回は、すべての防水材を剥がして防水工事をしました。
はがれない場合は、短冊剥がしや、機械を使っての剥がし方となるのですが、今回はこの写真のようにひっぱるだけでここまで剥がれました。
防水工事は、お天気を気にしながらやらなければならないので、一気にすべてを剥がす…というわけにはいきません。
そのため仮防水をしながら、天気を見て慎重に工事を進めました。
施工には、防水工事としてスタンダードなゴム剤を使って仕上げ、継ぎ目がない防水剤なのでこれでかなり雨漏りも防ぐことができます。
実はこのウレタン剤は、防水工事をする職人としても難しくない材料なのですが、なぜ1回目、2回目の業者がこの工事をしなかったのか本当に不思議です。
最初の防水工事で、こんな防水工事をしなければ…10年以上もの雨漏りを悩む必要はなかったのだと思います。
今回は、トップコートに5年後に塗り替えるタイプのものを使用して、工事を終了致しました。
お客様の方で、家を建て替えるかどうするか悩んでいらっしゃるとのこと。
5年雨漏りがないかを試しながら、建物をそのまま使用するかそれとも建て直してしまうか考えたいから…とのことでした。
今回の防水工事はお客様に非常に喜んで頂けたので本当に良かったのですが、実は壁の補修までは手を回すことができませんでした。
屋上の雨漏りを止めるまで、壁に取り掛かることができなかったためです。
1回目、2回目の防水工事がきちんとしていたら今頃壁の補修ができていなのに…と非常に残念に思います。
今回の工事の様子を、動画でまとめています。
見た目も綺麗に防水工事を行い、お客さまにもお褒めの言葉をいただけました。
併せて観たいYouTube
防水のプロだからわかる下地の重要さ
これは最近思うことなのですが、大手量販店さんや、大手の住宅メーカーさんなどが塗装工事を手掛けることが多くなりました。
そうした業者さんの中には、防水や防水の最も大切な「下地」について分かってない方が多いように思います。
改修工事というのは、下地の処理が非常に大切です。
ただし、あまりに下地に手をかけすぎてしまうと後ろの工程に響いてしまうため、下地を簡易的なものにすることがあります。
プロであれば簡易的な中で、手をかけずとも大丈夫な材料などを駆使して下地を作りこみます。
でも、最近の大手さんが行う防水工事は、簡易的な下地なだけで、こうした工夫が一切されていないことが多いのです。
下地をしっかりと考えていない工事は、その後何十年も後から行う防水工事に影を落とします。
どんなことにも共通して言えることですが、初動がきちんとしていれば、10年もの間雨漏りになるということは無いはずなのです。
お客様が工事費を気にされるのは当然です。もちろん、安く工事をすることはできます。
しかし安くできる理由は、スキルや知識の足りない職人による工事だったり材料費を削減していたりなど、工事の品質を落とすことで得られるもの。
今回の例の通り、工事を繰り返すことになってかえって高くついてしまいかねないのです。
また、最近ではお客様もネットなどで塗装や防水について勉強されて、器用な方はDIYで防水工事や塗装工事をされる方もいらっしゃいます。
でも、こうした工事はその一瞬は見栄え良く出来たとしても、5年後10年後に大きなトラブルとなってしまいます。
防水対策は、現場で知識と経験を積み重ねてきたプロでなければ、難しいものなのです。
塗装職人には、防水のプロや頼りになる知識を持ったスタッフが大勢います。
こうした職人の英知を結集し、改修工事の方法を考え抜くことで、10年先、20年先を見据えた工事ができるのです。
こちらは過去の屋上防水工事の動画です。
併せてご覧ください。
併せて観たいYouTube