もくじ
見積もり、営業担当の松尾です。
僕のブログでは何度かお話したシーリング工事ですが、今回はちょっと掘り下げて話してみようかと思います。
シーリング工事とは?
シーリング工事(シール工事、コーキングともいいます)は、外壁材であるサイディングボードなどをつなぐ役割や、雨漏り等を防ぐために行う工事です。
ボードとボードをつなぐ接着剤…というよりは、ボードとボードの緩衝材という方が正しいかと思います。
サイディングの壁はこのシーリングのおかげで、モルタルなどの一枚壁と比べて、耐久性があります。
ある程度の衝撃を受けても、シーリング材が力をボードの外に逃がすためです。
シーリング工事は、一見するとボードとボードの間にただシール材を充填しているだけのように見えますが、実は職人としての技術が必要です。
家の構造というのは、非常に複雑なもの。
様々な材料を組み合わせて工事し、配線、配管なども埋め込み、それらを最後に覆うように壁や屋根でぐるりと取り囲みます。
そのため、シーリング工事は家の内部の構造を理解したうえで実施する、職人の知識や経験が必要なのです。
具体的な職人の技をご紹介します。
シーリングを多めに打ち込んで笠木の動きに対応する
最初のケースです。
この屋根は、パラペットと呼ばれる陸状になっている屋根なのですが、トップの部分が2層になっています。
屋根の一番上部は、笠木(かさぎ)と呼ばれる部分で、笠木部分のシーリングはなぜかボコンとちょんまげのように盛り上がった状態に。
通常シーリングは壁からはみ出ないようにきれいに塗り込むのですが、ここはあえて盛り上げてあります。
このシーリングは笠木と笠木をつなぐジョイント部分に施してあるものですが、つなぎ目のためどうしても風や地震、寒暖の差などで動きが出ます。
こうしたジョイント部分に、シーリング材を多めに打ち込み、隙間をあけることで笠木の動きに対応するのです。
シーリングで埋めないことでパネルの遊びを残す
またこの写真のパネル側面部分を見ますと、太く打ち込んだシーリングの上下に、少しだけはみ出すように十字になっている部分があります。
通常であれば全ての目地(めじ:つなぎ目のこと)を塞ぐシーリングですが、なぜここで上下部分は短くしか打たないのでしょうか。
それは、パネルの四隅全てにシーリングを打ってしまうと、パネルの動きに逃げ道が無くなって、割れてしまう可能性があるためです。
上下のパネルのつなぎ部分にはしっかりとシーリングを打ち、パネル横部分にはあえて少しだけシーリングを噛ませることで、パネルの動きに遊びを持たせているのです。
ぱっと見はなんだか中途半端な施工に見えますが、非常に計算されたシーリングの打ち方なのです。
また、パネルは地震などの揺れで動くので、このような壁面の場合は伸びたら伸びっぱなしになるシーリング材を使用しています(低モジュラス)。
これによって、パネルの動きについていくことができるのです。
さらに、シーリングはメーターで換算して料金を出しますので、お財布にも優しい施工にもなっています。
雨水を逃がす「水抜き穴」も
では、この屋根を別方向から見てみましょう。
この写真を見ると、またもやパネルの間に十字やT字のシーリングが打ってあります。
しかも、シーリングの下部分を見ると、何やら小さな穴。
これは「水抜き穴」と言い、外壁などの中に入り込んだ水を外に逃がすための細工です。
この小さな穴で、パネルの内部に溜まる雨水を、排出します。
つまり、十字にシーリング材を打って、シーリング材部分から侵入した雨水は、ここから排出されるのです。
雨水は、人が思っているよりもずっと小さい穴からでも入り込みます。
壁の内部や屋根の内部で水が集まり、出口を探して移動します。
出口を無くした水は内部に滞留し、木部や鉄部などを腐らせる原因となるのです。
そのような雨も、きちんと細工すればこの小さな穴から排出させられます。
たかだかシーリング工事で壁に空けた小さな穴ですが、この穴があることでパネルの中を水は通り抜け、雨漏りを防げるのです。
シーリングは塗装とも違う専門的な知識と技術が必要
と、ここまで詳細にお話しましたが、この施工はどのお家でも有効な工事か…というと、そうではありません。
家によっては、もっとしっかりとシーリングを打たなければならないこともありますし、他にもシーリングの施工方法はいろいろあります。
職人にさまざまな知識があることはもちろん、本当にその家を知り尽くして対応する、オーダーメイドのようなスタイルがシーリング工事には必要なのです。
シーリングは、少し器用な人であれば、壁と壁の隙間に簡単に打ち込めそうに見えます。
現にホームセンターでは、シーリング材(シール材)も売られているので、DIYが得意な人は、ちょっとしたシーリングの剥がれは自分で直してしまいたいと思われるでしょう。
よくあるサイディングのシーリングの工事も、下の動画のようにシール職人でもないにも関わらず塗装の職人が兼業する場合が出てきてしまうのです。
でもシーリング工事は、ただボードとボードの間を埋めるだけではダメなのです。
以前「雨漏りを予防するために」と、劣化したシーリング部分にある隙間という隙間を全てシーリング材で埋めてしまったお客様がいました。
その後壁の中に雨水が溜まるようになり、雨漏りに…。
原因は、無計画なシーリング材の壁への注入でした。
せっかく最初のシーリング施工では劣化しているとはいえ水抜き穴があったのに、お客様自身でそれを塞いでしまったのです……。
ホームセンターで買ったシーリング材で、安く上げたつもりが、結局雨漏りを引き起こし大工事をするはめになってしまいました。
つまり、シーリング工事というのは、とても繊細で微妙な加減を必要とする工事なのです。
その他、シーリングが必要になる例
ここまで挙げた以外にも、シーリングが必要になる例を幾つかご紹介します。
ひとつめは「誘発目地」です。
マンションなどを取り囲む塀の部分なのですが、タイルとタイルの間に1本線でシーリング材が打ってあります。
これが、「誘発目地」として打ってあるシーリングです。
「誘発目地」とは、コンクリートにひび割れが起きる場所を、計画的に定めた場所のこと。
壁と壁の間にシーリングで作った隙間あることで、地震などの揺れがあっても力を分散させることができます。
このすき間を、シーリングによって防水するのです。
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また、ALC(軽量気泡コンクリート)などの壁材にもシーリングを使います。
ALCは軽石のような素材の壁材なのですが、東日本大震災の際にはALCに張り付けていたタイルがことごとく落ちてしまう事がありました。
壁材であるALCの板とタイルでは、家が揺れた際に引き起こす動きが異なり、結果ALCとタイルで引っ張り合いが起きてしまい、地震に耐えられなかったのです。
参照動画:ALCパネルのタイル張替えとシーリング
ですので、今ではALCの基本的な板の大きさである3m×60㎝の板と板の間に(これを板間と言います)シーリング材を打ったり、場合によってはタイルにもシーリング材を打ったりすることも。
こうして、シーリング材を動きの違う素材に噛ませることで、ムーブメント(揺れを受けた場合による壁材の動き方)が似るように処置をします。
またALCの壁材の後ろ側は、水を吸う特性があります。
そのためシーリング材の打ち方は、水の排出方法も考えなければなりません。
シーリングの施工方法によっては、せっかく排出しようと思った水がオーバーフロー(逆流)してしまう場合もあるため、工事の現場では職人としての知識が求められます。
専門職によるしっかりとしたシーリングが外壁や屋根を強固にする
今回は、さまざまなシーリング工事についてご紹介しました。
シーリング工事は、工事費としては高額です。そのため塗装の際に、シーリングの取り換えを躊躇されるお客様もいらっしゃいます。
でも、壁の構造を考えればこのシーリングは、例えるならば人体の骨と骨をつなぐ関節と同じく重要なもの。
関節が無くなったり劣化したりすれば、それが大きな不具合を引き起こすのは明らかですよね。
またシーリング工事は、ただ業者に頼めばいいわけではありません。
本当に家の構造のことや外壁の相性などを知っている職人や業者に依頼をしないと、せっかくのシーリング工事が、かえって雨漏りを引き起こしてしまうこともあり得るのです。
どうかシーリング工事を判断する際には、ネームバリューや値段ではなく、技術を見て下さい。
きちんと工事費をかけ、経験をしっかりと持った防水職人に出会えれば、外壁や屋根はより強固なものとなるのです。
参照動画:シーリングの動画です。