もくじ
塗装工事をお客様が検討される際、気にされることのひとつに「塗料のグレード」があります。
お客様の中には、高級なグレードの塗料を使えば雨漏りなども補修ができる、防ぐことができると思っている方もいらっしゃいますが、これは大きな誤解です。
塗装工事は、高級な塗料を使えばいい工事になるわけではありません。
では外壁や屋根にとって、塗料とはいったいどういうものなのでしょうか?表面をカバーするためのもの?お化粧のように美しくみせるためのもの?
僕は、塗料とはある意味外壁や屋根にとっての薬のようだと考えています。
外壁や屋根の症状を見て、最も適したものを塗布し、外壁や屋根の状況によって塗布する量も変わる。
薬は症状や体型、年齢によって飲む量が変わり、処方もお医者さんによってさまざまです。頭が痛いのも、腰が痛いのも傷が痛いのもすべて同じ鎮痛薬を使うかといいますと、そんなことは絶対にありません。
塗料もそれと同じです。
お客様の家が、どれ一つとして同じ条件の家が無いように、どの家でも同じ塗料で同じ効果が得られることなどはありません。それぞれの家の現状によって、使用に適した塗料は違います。適した塗料を選ぶためには、なによりもその塗料に行き着くまでのプロセスが大切なのです。
そこで今回は雨漏りの事例として、分かりやすく症状の現れるコンクリート壁で写真を元に解説し、その上で塗装工事の選び方について詳しくご紹介いたします。
コンクリート壁から分かるいろいろな原因の雨漏り
コンクリート壁は、戸建ての外壁に比べて雨漏りの症状が非常にわかりやすいのが特徴です。雨漏りによる水道(みずみち)が、非常にはっきりと見えます。また、外に漏れ出している水の色から多少はコンクリート内部の状況を判断することが可能です。
まずはこちらの写真。陸橋の柱にあたるコンクリートなのですが、コンクリートの中のアルカリが白く溶け出し、ステンレスの部品横に水道(みずみち)ができています。
どこからか雨が内部に入り込み、コンクリートの中を通って水が表にあふれ出てきているのでしょう。
次にこちらの写真です。コンクリートの打ちっぱなし壁には、茶色の水道(みずみち)があります。
これは中の鉄骨が錆び、爆裂(鉄が錆びたことで膨脹し弾けたようになること)が起こる、もしくは起こっていることが予想される状態です。
同じ水道(みずみち)ではありますが、色が違うだけでコンクリート内部の状態は大きく違います。
この二つの例はどちらも雨漏りの症状ですが、補修の仕方は雨の進入口を塞げばいいものと、壁の中を補修しなければならないものとで大きく費用も施工内容も変わるのです。
次に、こちらの写真をご覧ください。
これはとあるお寺の石垣なのです。左右で全くちがう壁肌になっているのがお分かりいただけますでしょうか。
どちらも同じような経年がみられますが、左右の劣化に差があることからさまざまな状況が考えられます。
同じコンクリートなのに片方だけ劣化してしまったのか、もしくは何らかの理由で左右違うコンクリートを使い工事をしたために左右で劣化度合いが違うのか……。
正直、原因が分からないことには補修方法を探すことも難しいでしょう。
しかも、向かって左側の壁は、ところどころ剥離まで起こっています。
どのように水が回って、このような状態になったのか、これまでの塗装の履歴や内容を調べませんと、本当に分かりません。
雨漏りの症状が分かりやすいとされるコンクリート壁でさえも、防水のプロが予想することもできない症状というのがあるのです。
最後にまた別のコンクリートの擁壁ですが、水がまわって表面のコンクリートが剥がれ落ち、中にある砂利が表に顔を出しています。
この状態から、コンクリートが非常にもろくなっていることが予想され、擁壁として不安定な状態です。
このように、コンクリートの擁壁や石壁は、外壁に比べれば単純な構造なので多少は見ただけで予想ができますが、単純な構造にも関わらず見ただけでは分からない状態の雨漏りとなっているコンクリート壁があるのです。
これが、外壁や屋根になったらもっと大変です。
コンクリート壁よりも、戸建ての外壁は構造が複雑でさまざまな素材が合わさってできています。そのため、外から見ただけでは雨漏りの原因は分からないのです。
大谷石の擁壁工事の動画です
塗装の判断基準は、何を大事にしたいかということ
塗装工事を考える際に、雨漏りは見た目だけでは判断が難しいことをご紹介いたしました。
では、雨漏りがない場合はどのような判断基準で塗装工事を考えればいいのでしょう。
よく屋根塗装をする際に、お客様から「プロとして考えるとカバー工法と屋根塗装はどちらがいいですか?」とご質問を受けることがあります。
実際、屋根の状態にはいろいろあるため、一言ではお答えできません。
例えば屋根にこれといった破損がなく、状態も良いようであれば、価格のことを考えて屋根塗装するのも一つの手です。
ただし、屋根材の下に敷く防水紙の耐久年数はメーカーによっても異なり、多くの場合は10年ほどとなります。それを考えますと、防水紙強化のためにも屋根の葺き替えもしくはカバー工法がおすすめです。
しかしこれも、防水紙の状態によって耐久年数は変わりますので、「これが絶対です」というおすすめはできません。
結局のところ、家を建てた際にどのような施工をしたのか、どんな材料を使ったのか、そして家の立地や環境はどんなだったのか…などの複合的な環境要因と症状と予算でお客様にご判断を頂くしかないのです。
塗料を薬、そして家を患者に置き換えると見えてくるもの
先ほど塗料を薬で例えましたが、塗料が薬であれば家は患者だといえます。
患者は病院で診察を受ける際に、何も状態を話さずに病気を診断してもらうことはできません。恥ずかしい話だとしても、お通じのことから体重やちょっとした気になること、食べたものや飲んだもの、喫煙量、運動量などなどすべてのことを話さなければ正確な診断は難しいでしょう。
家も同じで、建築した際の内容や増築や再塗装、補修工事などすべてをお話しいただけませんと、なかなか最適な塗料や工事内容を見つけることはできないのです。
また、ここが肝心なことなのですが、医者が助けることができない患者がいるように、塗装業者が手の施しようもないほどの状態になっている家はあります。
「プロなのだから、この雨漏りも簡単に直せるでしょ?」
と思われるお客様もいらっしゃると思います。
しかし、がんが転移して助けられない患者と同じで、家も雨漏りが家屋全体に回りどおしようもない状態になっていることがあるのです。
僕としては、雨漏りのプロだからこそ雨漏りを止めたい。そして止める覚悟はあります。
それでも、できないという事実があるのです。
雨漏りを止めた防水工事の記録です
見積時に機軸にするのは金額?それとも工事内容か?
どうしてもネットで塗装工事について調べると、塗料の効果は調べやすいと思います。
けれども塗料の効果だけを信じて、原因が定まっていない箇所に塗ることは非常に危険なことです。ある意味、病気を自己診断して勝手な薬を処方していることと同じといえます。
中でも雨漏りしている箇所に塗る塗料は本当に選ぶのが難しく、先ほどもコンクリート壁の例でお話ししましたように、同じ症状に見えたとしてもその症状を引き起こしている原因がまったく違うこともあるのです。
また、薬と同じで塗料には副作用があります。
例えば防水性の高い塗料を使ったことで、雨漏りの排出口となっていた箇所を塗膜で覆ってしまい、外壁の中に雨水がたまる原因を作ってしまうことなども。
どんな工事にしても、何の材料を使うか…ということよりも症状に合わせた工事のプロセスが大事なのです。
見積もりをとる際に、多くの方は金額を機軸にして塗装会社を比べます。
しかし、外壁塗装工事でもっとも大事なのは工事の内容です。
家の持っている来歴や現場調査をした内容、立地条件などを加味して考える最適な工事内容。これが一番重要といえます。
見積もりが上がってきたら、工事の内容について「なぜこれが必要なのか」ということを詳しく営業担当に聞いてみてください。
家の状態などを加味したうえでマイナスとなる効果も含めての提案なのか、それとも良い効果のみを前面に押し出した提案なのか。
金額だけをみれば、前者の業者のほうが高い金額になるかもしれません。
それでも、家のこれからの10年を考えればどちらの塗装工事をすれば家の状態を持たすことができるのかは明らかです。
お客様の一番望むものは何か それが塗装工事内容を決める鍵なのです
みなさんは、どんな塗装工事がしたいでしょうか?
問題点の解明をせず、上辺だけきれいにするただのお化粧的な塗装工事ですか?
それとも、じっくりと問題点を見つめ、見た目が多少悪くても根本的な中身治療のための塗装工事ですか?
家の外壁塗装を考えるのであれば、金額を出発点に考えるのではなく、工事のプロセスから考えてみてください。
わからないことは、どうぞ塗装職人にご質問ください。
少しでも家にとって必要な塗装をご提案するために、知識と実績を磨いてお待ちしております。