職員さんと消防署員さんによる、横浜市旭区役所の塗装はいよいよ本番塗装です。
前回の試し塗りについてはこちら。

試し塗りである程度作業イメージをしてくれた担当職員さんが色々手配や段取りをしてくださり、無事本番塗装を開催することが出来ました。

通路際の壁とエレベーター周りです。

前回はほん数平米の壁の作業で、来庁者にも邪魔にならない通路の奥の部分が塗装対象でした。
そのため平日に実施しましたが、今回は面積が広いということもあり来庁者の通行も考え日曜と祝日の2連休を使っての塗装計画です。
材料準備と発注
前回の試し塗りでは、塗料やローラーや刷毛など購入物は限定的でほんの少しだけ事前に用意させて頂きましたが、大半は普段から現場で使用している道具を使用しました。
ただ今回は面積も広いです。さらにどれだけの人数の職員さんが参加してくれるのか未確定要素もあったため、どれだけの刷毛やローラー、塗料の入れ物になるバケットなどの道具の数量を準備するのか悩みました。


塗装する面積は、区役所側で塗装する図面を準備してもらっていたため把握できていたのですが、職員さんに取ってみれば非日常の作業です。
楽しみにしてくれている職員さんのことを考えると、道具が足りないせいで作業できないという状況にはさせたくなかったということもあり、新たに用意する道具の数量に結構悩みました。
結果的には刷毛やローラーを職員さん同士でうまく使い分けてくれていたので、道具の数量的には何とか足りていたようでほっとしました。

今回は天井は当然ながらほぼ目立つ汚れはないため塗装箇所は壁です。ただ天井付近の壁も多少高さがあるので脚立は必要な分だけ区役所側で用意してもらいました。
作業前あいさつ
作業当日の9時近くになり、今回塗装を担当する職員の皆さんが徐々に集まり、段取りの確認や作業分担の調整が行われました。
作業車に積んだ材料や道具をおろしていきます。

現場のリーダー的な存在となる担当職員さんは、朝一番に到着していたので軽く打ち合わせを実施。
事前の計画を再確認しつつ、スムーズに作業が進むように細かな調整を行いました。
実は、前々日の金曜の夜にも電話で打ち合わせを行い、作業量に対して適切な人数を確保する難しさについて話し合っていました。特に今回は、休日を利用したボランティア作業ということもあり、職員の皆さんが参加しやすいように配慮する必要がありました。

さらに、作業場所は地下通路。日が差し込まず、寒さが厳しい環境が予想されていました。貴重な休日に家族との予定を優先したい方や、ゆっくり休みたい方も多かったことと思います。そんな中で職員の皆さんが自主的に参加してくれるように調整するのは、担当職員さんにとって大きな課題だったとも思います。
理想としては、1日で作業を完了させたいという希望もありました。しかし、参加者の多くは塗装作業の経験がなく、作業の進捗を事前に正確に見積もるのは難しい状況。無理なく進められるよう、配置などはおおむね決めていたようですが、後は臨機応変に対応する方針で進めることとなりました。
塗料等材料の置き場決め
塗装作業では、多くの職員さんが塗料や道具に直接触れることになります。そのため使用頻度の高い道具を手に取りやすい位置に配置することが重要です。ちょっとした工夫ではありますが、こうした整理が作業のスムーズさを大きく左右します。

現場では、道具を配置する場所を「ネタ場」と呼びます。例えば、養生作業ではマスキングテープやビニールマスカーを使い分ける必要があり、適当に積み重ねてしまうと、必要なものを探すだけで時間を浪費してしまいます。特に、普段塗装作業に慣れていない職員さんにとっては、材料が整理されていることで迷うことなく作業に集中できるため、配置にも配慮しました。

また、工程ごとに適切な道具をスムーズに使えるようにすることも重要です。養生作業が完了したら、塗装作業へ移行します。その際、細かい部分は小さい目地刷毛、少し広い範囲には筋交い刷毛、そして広範囲の仕上げにはローラーを使用するなど、作業を円滑に進めるためには、最初の段階で塗料や道具の置き場所をしっかり決めておくことも大切です。


作業手順の説明と基本技術の指導
開始時間になると、まずは作業手順の説明を行いました。どこまで伝わるか少し不安もありましたが、養生の方法や刷毛・ローラーの基本的な使い方について、一つひとつ解説しました。
刷毛の使い方については、筋交い刷毛を例に取り、「ペンを持つように握り、毛先の半分ほどに塗料を含ませるのが理想的」と説明しました。塗料を柄の部分までつけてしまうと、作業中に余分な塗料が垂れ落ち、床や他の部分を汚してしまうため、慎重な扱いが求められます。さらに、塗料を含ませた刷毛をそのまま使用せず、バケットや下げ缶の縁で軽くはたいて余分な塗料を落とすことで、塗料の垂れを防ぎながら均一な仕上がりにする方法を実演しました。
ローラーの扱いも基本は同じです。塗料をバケットの中でしっかり含ませた後、ローラーネットの上で転がしながら余分な塗料を落とし、ムラなく壁に塗布していく手順を説明しました。これにより、塗料が厚くなりすぎたり、逆に薄くなりすぎたりするのを防ぎ、均一な仕上がりを実現できます。
初めて塗装作業に挑戦する職員の方が多い中、基本的な技術を押さえつつ、実践しながら慣れていってもらうことを意識して説明を進めました。
記載台まわり
今回は地下の通路です。とは言っても区庁舎だけに来庁者に向けての案内や掲示物など設置物がたくさんあります。
当日前にもできるだけ養生作業が少なくなるように取ってもらっていたものもあったようですが、記載台やベンチなどはそういう分けにはいかないようで、職員さんが手分けして移動させていました。守衛室の下も作業的にはかがんで作業するので厄介な部分です。


養生作業
まずは養生から開始です。一番最初に貼っていくマスキングテープによる養生はとても重要な作業になってきます。
その点も十分説明させてもらいました。


各自職員さんが塗る場所に別れ、養生材をそれぞれ手に取りながら養生をしていきます。
エレベーター周りやトイレ付近には掲示物がそれなりにあります。
床はマスキングテープとビニールマスカー、同じビニールでも歩いても滑りにくく破れにくい緑色のノンスリップマスカーで床を養生します。


塗装の養生の肝はペンキの飛散や塗料漏れを防止するということです。
特に通路の床面付近の壁には黒い巾木があります。
今回の塗料は既存の壁とほぼ同色のアイボリー系です。
巾木に少しでもペンキの漏れが生じると異様に目立つことになり仕上がりが悪くなります。


もし漏れが発生した場合、ペンキを除去する掃除は何倍もの手間にもなってくるので慎重な作業の必要性は十分に説明をさせてもらっていたので皆さん丁寧な作業を心がけていました。ただやはり不慣れな作業です。貼りなおす職員さんもいて難しいだろうなというのは感じました。
旧塗膜の脆弱部の撤去
実はというと今回一番頭を悩ましたのがアスベスト(石綿)問題です。
一昨年の10月から改修工事などをする場合、アスベストが飛散して健康被害を出さないように作業箇所の対象物に石綿が含まれているのかいないのか石綿含有建材調査者による事前の調査が必要になったのです。


外壁や室内などに関わらずです。
すべての建物に対して石綿が含まれているのかいないのかの調査と報告が厚生労働省によって義務化されたのですが、今回は私見ではありますが当初からおそらく石綿が含まれていないという判断でした。
その規制も例外がないわけでもなく、請負金額が100万円以下の工事や80㎡以下の工事、それと極めて軽微な工事については報告は対象外。
今回は ボランティア作業 であり、請負金額は発生せず㎡的にも80㎡以下。
ただ2006年に石綿の製造が禁止されたので、同年以降に建てられた建物は対象外ですが、旭区役所は聞く限り築50年は経過しています。

今回は建物内の塗装なので、一見この法規制と全く関係がないように見えますが、問題は塗膜の剥がれです。
石綿というと、それこそ綿のようなふわふわした素材のようにも見えますが、外壁塗装や屋根塗装においてもスレート屋根や外壁、または付帯部のケイカル板などの軒天や破風にも使用されていることもあります。
建材という枠組みで考えれば、今回の壁の剥がれの撤去も厳密には調査対象とされる”仕上げ塗材”として扱われてしまう可能性もないわけではありません。
古い建物、例えば今回のような役所関係や省庁などの建物内部にはこういう劣化現象は結構数多く見かけるのではないでしょうか?


今回の施工では、報告義務は完全に対象外と把握していたのですが、調査対象といえば非常に微妙な線でした。
この塗膜剥がれの撤去はどう見ても軽微作業という認識でしたが、試し塗りの面積とは大きく違い、念には念を入れて用意していたスクレーパーやカワスキなどの工具等を使っての撤去は断念し、手ではぎとるように作業したため、剥がれの部分はいささか微妙な仕上げになったのは仕方のないところでした。
本来は分析会社に塗膜片を分析会社に依頼するか、初めから石綿が入っているということをみなしての「みなし作業」という判断のもと作業が必要になり、その場合国家検定品のごつい防毒マスクのようなマスクの装着をし、撤去個所を液体で濡らして飛散を防ぐ湿潤作業に加えて、さらに専用の吸引機にて掃除をするこの3つの作業が必要になるわけなので、室内のほんのわずかな微妙な塗膜片の撤去ではどう見ても、オーバーな作業環境と言いたいところでしたが、この点が今回の塗装作業で一番頭を悩ませた問題でした。
横浜市役所でも実績のある水性ケンエース
養生も終わり実際の塗装に入っていきます。
カートリッジとローラネットを装着させたバケットに塗料を入れて準備をします。
バケットはピンク色で新発売されたものですが作業にも華やかさの雰囲気がてていい感じです。


まずはローラーで入りきれない個所などの細かい場所を刷毛を使用して先行して塗っていきます。
掲示物まわりや巾木などはローラーで塗ってしまうと養生をした部分を飛び越えて塗ってはいけない部分まではみ出す可能性もあるのでそこは刷毛で地道に作業をしていきます。


塗料は前回の横浜市役所の時と同じで、仕上がりもきれいな実績のある「水性ケンエース」を使用。

ヤニ・しみ止め効果と優れた付着性・汚染除去性、防藻・防かび性能をもつ塗料です。
お子さんが触っても安全性が高く、ほぼ匂いもなしで艶消しということもあって今回の場所にもってこいの塗料です。
階段塗装は狭く滑りやすいため注意
壁に掲示物など何もないまっ平らな部分の塗装は難しくありません。
作業説明はさせてもらいましたが、おそらく感覚で塗ることはできると思います。
ただ塗装は均一的な厚みを持たせて塗るというのも耐久性を維持するためには必要なことなので、刷毛やローラーで塗る際に部分的に塗りが薄い箇所があったり逆に塗料がたまったりすると仕上がりが悪くなってしまいます。
そこはよく見ながら注意をして慎重に塗っていきます。
掲示物があるような場所も塗装に関しては養生がしっかりされていれば難しい作業ではありませんが、掲示物周りなどは一気にローラーで塗ってしまわないように刷毛も多用しながら塗っていきます。

それと安全性という意味でいえば慎重な作業が必要なのは脚立を使っての作業です。
現場での作業では職人はもちろん足場の上や脚立上での作業も慣れています。
ただ高さが低い脚立ほど危険度という意味で安く見積もってしまうため職人といえども注意が必要なのです。
たった60センチ程度の高さの脚立でも全身麻酔で4時間ほどの骨折手術をした職人もいます。
とはいえ今回は外壁塗装など住宅地の狭小地などと異なり、通路も広く作業的に脚立は必要ですが背が高い人ならローラーが天井に届く高さということもあって皆さん普通にのびのびと作業をしていました。


あとは階段です。階段は幅が狭いのと平坦な床と違って斜めな場所なので結構作業がしにくい場所ではあります。
今回は意匠的にも階段の壁の上下を塗り分けての作業です。
ここは段差がある作業環境ということもあり、ビニール系の養生だけでは滑る可能性もあったので、ベトナムシートという布養生を使いながらの作業でした。

親子で微笑ましく塗装
前回の横浜市役所塗装もそうでしたが、やはり非日常の作業です。お子さん連れでお父さんやお母さんの職場をローラーや刷毛を使って一緒に塗って壁がきれいになるという作業がとてもいい体験として思い出になるかなと思います。
ちなみに弊社塗装職人では、現場での塗装体験というイベントも行っています。
お客様宅の外壁塗装をさせて頂く際、ご家族にも塗装に参加をしていただき弊社の一級塗装技能士と共に外壁を塗っていくという体験イベントです。
今回は小学生のお子さんも元気いっぱいに作業をしてましたし、中学生や高校生ほどのお子さんも親御さんの職員さんと一緒になり、ただ作業をするというより仕上がりを意識して作業に取り組んでいるという姿勢がよく伝わりました。


消防署員の方たちも塗装作業参加
23日は午前と午後ともに消防署員の方たちも参加してくれました。
体力勝負という作業ではありませんでしたが、意外にも細かい場所を丁寧に地道に塗ってくれていました。
今回の塗料は2回塗りが標準仕様です。

午前に下塗りして、昼休憩を少々早めにとってから午後から上塗り塗装開始です。
案外にも地下通路は暖房が効いているのか不明ですが、作業中はそこまでの寒さはなく下塗りの乾燥状況も問題なく上塗りに移行できたわけなのですが、下塗りとこれから塗る上塗りする部分との境もよく見て塗らないと塗り忘れがあったり同じ場所を何回も塗装したりするので、もし今後塗るようなことがあればその点もよく説明させてもらえればよかったなという気づきがありました。
区長さんや総務課長さんもローラー塗装
今回は日曜日と祝日の2連休での予定でした。
午前と午後でも職員さんの入れ替わりが多少ありました。
午後参加の人にも午前と同様な技術的要素の説明をさせてもらいました。
特に午前作業の職員さんの作業を観察させてもらった際に気づくことが多かったのでその点をメインにした作業説明をさせてもらいました。
午前作業では養生作業がありましたが、午後はすでに養生作業が済んでいるのでほぼ塗装作業のみです。

気づいたことがあるのも塗装作業についてです。
例えば刷毛やローラーに塗料を付けすぎて塗料を床に落としすぎてしまったり、その塗料を踏んでしまった足で床養生をした以外の場所を歩いて床を汚してしまったりすることなどです。

この塗装プロジェクトの計画段階から、そういうこともあろうかと床全面の養生も案としてはあったのですが、予算の問題や可能な限り作業時間の短縮を考慮にも入れてたため全面養生は選択外としたのです。


横浜市役所の廊下プロジェクトでは、職員さんの人数も70名ほどで、平米数も今回の比ではなかったためもっと大がかりなものでした。
ちなみにこちらは2010年当時の記者発表は施工の様子です。

たくさんの職員さんが一生懸命頑張っていただいた一方で、直接塗装的な作業以外の養生などの撤去やその後の漏れや掃除をこちら側で負担させてもらう部分も正直結構ありました。

それも今回は道具や材料の手配と段取りはさせて頂いたものの直接の作業はこちら側ではほとんどせず、職員さんだけで完成させたといっても全然過言ではありませんでした。
弊社側からは直接手は出さずほぼ手放しです。
午後からは区長さんもローラーハンドルを握り、塗料がこぼれた床の掃除や時には脚立に上り一生懸命塗装作業をしていました。

総務課長さんは午前午後とも作業中はずっと黙々と一生懸命作業に徹していた姿も印象的でした。

他の職員さももちろん、区長さんも総務課長さんも脚立の上に乗り意欲的に作業していきました。
徐々に完成に近づいていきます。


日曜でも来庁者への配慮
旭区庁舎は旭公会堂や消防署も同じ建物です。
公会堂は平日や日曜は関係なく来庁者も少なくないようです。
写真のように手前は地下駐車場がありエレベーターに乗り込むまで通路を通る必要があります。

エレベータ周りはとくに塗装作業が複雑です。
当日の作業時も来庁者の方がエレベーターを使っていた場面も多くあり、職員さんが通行での支障がないようにとても案内に配慮していた様子がうかがえました。
無事きれいな壁に生まれ変わり
最後は養生はがしです。
一応養生をはがす際の作業説明を求められたので説明はさせてもらいましたが、実は大した手順というのはほとんどなく、ただ上から順にはがして撤去していくというだけの話です。


ただ職員さんによっては下のほうからはがしていく人もいたので、仕上がりにほぼ影響がない作業では自由な発想でやってもらったほうがぎちぎちに決めて行う作業よりかは楽しめて作業できるのかなと、もし今後他の自治体からも協力要請があればその参考にしたいなと思いました。
片付け作業
塗装作業が終わったらいよいよか片付けです。バケットを集めて道具や材料を片付けます。

仕上がりといえば階段周りはご覧の状況です。階段は脚立が使えないので下の部分だけ届く範囲を塗装しました。


ベンチが置いてある壁のほうもだいぶ印象が変わったと思います。




担当者さん曰く今度は通路ではなくまさに勤務している場所もきれいにしたい的なことも話されていましたが、掲示物などや壁にケーブルなどが這っていなければやりやすいかと思います。
今回のプロジェクトを通して、もし興味がある自治体や庁舎関係など、神奈川県内や県境の東京都内であればお手伝いも可能です。
