横浜市港北区のY様邸の塗装改修工事で一番印象的だったのは、色の決め方でした。
外壁の色決めは、たいてい「色見本帳から候補を選んで、実際の外壁に当ててみて…」という流れになります。ですがY様邸は、そこがまったく違いました。施主様の奥様が「普段使っているマニキュアの色を、外壁にしたいんです」と、はっきり“基準”を持っていらしたのです。

一見するとロマンのある話ですが、現場としてはかなり繊細なチャレンジです。マニキュア特有の、青みを含んだブルーグレー。小さな面積なら成立しても、外壁のように大きな面に広がると、ほんのわずかなズレが「思っていたのと違う…」に直結します。

そこで今回は、塗料メーカーへ特注色として発注し、“外壁のスケール”で成立する色味に調色してもらう方向で進めました。使用塗料はナノコンポジットWを前提に、狙いのブルーグレーへ合わせ込んでいきます。
今回は塗料メーカーの標準色ではなく、さらに日本塗料工業会の色見本からの指定でもなく、お客様のイメージされている色のマニキュアを塗料メーカーに預けて、理想の色を作成してもらいました。その分の調整費用コストはかかってしまいましたが、お客様はそれだけ色のセンスのこだわりをもっている方でした。
塗装は一級塗装技能士の原本職人が担当しました。原本にとってもいろいろとチャレンジになる現場でした。

サイディングの“素性不明”があるほど慎重に
今回の外壁はサイディングでしたが、新築時にどのようなコーティングがされているのかが分からない状態でした。最近のサイディングには「汚れにくくするための特殊な加工」や「光触媒コーティング」といった処理がされていることがあります。
これが分からないまま塗装をしてしまうと、塗った直後はきれいでも、しばらくしてから塗料が浮いたり、剥がれたりするというトラブルにつながることがあります。
原因は通常の下塗り材ではしっかりと密着できない場合があるからです。

そこで今回は、こうした剥がれのリスクをできるだけ減らすために、密着力が非常に高い「高密着シーラー」を下塗りに使用しました。
下塗りは、見た目には分かりませんが、塗装全体の持ちを左右する、とても重要な工程です。
外壁の状態が読みづらい現場ほど、下塗りは「念のため」ではなく、塗装の土台となる主役になります。
どんなに良い上塗り材を使っても、その下がしっかり食いついていなければ、長くは持ちません。
今回は、完成後には見えなくなる部分だからこそ、将来の安心につながる判断と材料選びを行いました。

2色塗りの意匠を生かすのは“狙いすぎない技術”
仕上げは単色の塗りつぶし(一色の塗料で表面を塗る技法)ではなく、サイディングの凹凸を生かす2色塗り(多彩色仕上げ)を採用しました。まずベースとなる濃い色で中塗り・上塗りを行い、膜厚と色をしっかり作ります。この土台が甘いと、後に行うサイディングのパターン付け(凹凸に模様付けする技法)が浮いて見えてしまうため、最初の工程はムラを出さないことに集中します。
そして、凸部分だけに薄い色を乗せるパターン付けへ。ここで活躍するのが毛丈7mm程度の短毛ローラーです。毛丈が長いと凹部まで色が入り、狙った「凸だけ」の表現が崩れてしまいます。短毛で、必要なところに必要なだけ置きます。

ただし、ここが2色塗りの難しいところで、きっちり揃えすぎると不自然になります。原本職人いわく「気を使いすぎると、分けた感が出ちゃう」。そこで、遠目で全体のバランスを確認しながら、少しランダムにぼかして仕上げました。
手元では正解に見えても、離れて見ると濃淡が偏っていることがある。だから、離れて見て、戻って直す。この往復で“自然なのに上質”な質感に近づけていきました。

結果として、2色と言われなければ気づかないほど自然。でも、近くで見ると確かに表情がある。Y様邸で目指したのは、まさにこのバランスでした。
屋根は深い溝に塗料を溜めない「1日1工程」
屋根は厚みがあり、溝が深い大和スレート。アーバニー風(コロニアル系の厚物)のように、形状がしっかりしたタイプです。この屋根は溝に塗料が溜まりやすく、乾燥不足のまま重ね塗りすると、垂れ・ベタつき・密着不良の原因になります。見た目は乾いているようでも、溝の中は乾いていないことがあるんです。

そこで今回、原本職人が現場で徹底したのが「1日1工程」。

下塗りをしてその日は乾燥。翌日に中塗り、また乾燥。さらに翌日に上塗り。

季節によって乾きは変わりますが、焦って詰め込むほどトラブルの芽が増えます。溝の陰影まできれいに出て、屋根全体が締まる仕上がりになったのは、この“待つ工程”を守ったからだと感じています。
ソーラーパネルの“死角”を揃える
屋根にはソーラーパネルが設置されており、パネルと屋根の隙間はローラーが入りづらい状態でした。ここを「塗れないから仕方ない」にしてしまうと、見た目の弱点になるだけでなく、湿気や汚れが溜まりやすい“守るべき場所”が手薄になります。

そこで、原本職人はローラーの柄が当たるギリギリまで差し込み、パネルの端から数センチ奥まで塗装を揃えました。テープも入りにくい箇所なので、「基準を作って、届く限界まで揃える」やり方で対応。見えづらい場所ほど丁寧に。こういう数センチが、全体の完成度を変えます。
付帯部も丁寧に塗り分け
外壁が多彩色になるほど、付帯部の色が雑だと全体が締まりません。今回は外壁の2色に合わせ、付帯部も丁寧に塗り分けました。
特にワンポイントで色が入る箇所は、塗り忘れがあると足場解体後に一発で目立ちます。現場でも「ここだけ忘れると、凄く目立つので本当に気をつけました」と原本職人から話が出ていた通り、最後まで緊張感のあるポイントでした。

色のこだわりを形にする難しさと面白さ
マニキュア由来のブルーグレーを外壁に落とし込み、さらに2色塗りで“唯一の一棟”へ。Y様邸の現場は、色のこだわりを形にする難しさと面白さを、両方教えてくれました。

色にこだわるというのは、見た目の話だけではありません。施主様が「この色が好き」と思える家になることは、暮らしへの愛着を守ることにもつながります。
そのために、下塗りで密着を確保し、2色塗りは狙いすぎず自然に、屋根は1日1工程で確実に、ソーラーパネルの死角まで数センチを揃える。そんな積み重ねで、仕上がりの説得力が生まれました。

また、原本職人の一級塗装技能士の技術だけでなく、さらに現場の数を踏んできた経験が生かせました。横浜市港北区のY様邸は、積み重ねと経験が仕事の価値を改めて感じさせてくれた現場でした。

