もくじ
前回のブログでもご紹介しましたシロアリに窓枠をボロボロにされていたお客様宅の工事について、引き続きブログでご紹介したいと思います。
お客様は数年前にシロアリ駆除業者に依頼をして、シロアリの駆除剤をまいていました。しかしシロアリは駆除されておらず、このような結果になってしまったのです。
なぜここまでシロアリ被害が広がってしまったのか…。
詳しくお話したいと思います。
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悪条件が重なったシロアリ被害
まずはシロアリが繁殖するに至った悪条件について、ひとつひとつご説明致します。
悪条件その1
外壁に雨水の進入口があり、壁の中に水道ができていました。
シロアリ被害のひどい、窓のサッシ付近にその水の出口があったのですが、雨漏り対策でDYIにてシリコンで塞いでしまっていたのです。
要は、水の入り口は塞いでいないのに、出口だけ塞いでしまったので雨水は壁の中に溜まってしまいました。
結果、シロアリの好む湿度と水分が壁の中に保たれることになったのです。
悪条件その2
こちらの建物は、前回のブログでも書きましたが断熱材の入れ方が通常とは違いました。
また使用している断熱材は発泡スチロールタイプのものでした。
この発泡スチロールは、シロアリにとって好物の一つです。そのため木部だけでなく断熱材もシロアリ繁殖用の餌に……。
また、外断熱は断熱材が地面に接触しやすくシロアリが家の中へあがる道を作ってしまうことがあります。
ここに先ほどの悪条件1の湿度と水分が加わり、シロアリにとっては地面から進入することができ、餌が豊富で過ごしやすい環境ができあがってしまったのです。
併せて観たいYouTube あなたのお家を守れ!シロアリ予防
悪条件その3
こちらの施主様は、数年前シロアリに気がつき、駆除業者にお願いをして駆除作業をしてもらっていました。
しかし、結果はこの大繁殖です。
なぜこの結果になったのかというと、外断熱が問題でした。
壁下地の下にコンパネや木枠の隙間を埋めるように断熱材がいれてあり、薬剤を注入しても断熱材が邪魔をして全体に行き渡らなかったのです。
また、この時担当したのが塗装などの壁を開ける工事などができる業者ではなく、シロアリ駆除業者だったため、壁を開けることなく駆除剤が散布されました。
もしも壁を一部だけでも開けていれば、外断熱であることがすぐに分かり、駆除の仕方も変わってきたはずです。
壁を壊す工事…というのは、大工職人の担当になることが多く、家の構造や建て方を分かっていないと、ただの外壁破壊になってしまうため、駆除業者では対応できません。
もしもシロアリ駆除業者ではなく大工や塗装業者に頼んでいたら、もう少し手前で被害を食い止められたでしょう。
業者の選択も、悪条件の一つとなってしまったのです。
広範囲のシロアリ被害、どこで折り合いをつけるか
今回はあまりにもシロアリの食害が広範囲で、最初は手前のサッシ周りだけだったものが、その奥のサッシ周りもすべてサイディングを剥がして駆除と補修工事を行うこととなりました。
筋交いは途中までシロアリの食害がひどく、切断し補強するためのプレートを入れています。柱も食害はあったのですが、家の構造上切るわけにはいかないので、そのまま残し薬剤をたっぷり注入。(間柱という建物の要となる柱だけ、シロアリの食害をそこまで受けておらず…。これは本当に不幸中の幸いでした。)
今回はそれぞれの箇所に合わせて、スプレータイプのもの、オイルのもの、塗るタイプのものなど4種類の薬剤を使用しています。
基礎の水切りにかましてある木の部分は被害がひどかったのですが、切除はできないのでびちゃびちゃになるまで薬剤を撒きました。
今回、工事で開けたのは写真で写した範囲のみですが、実際はもう少し広範囲にシロアリが広がっていると思います。
しかし、端に行くにつれ軽微な食害になっていることや、残り少ないシロアリであれば雨漏りを止めて壁の中の水を減らすことで、活動が抑えられることから、お客様にご覧頂き納得頂いた上で、工事は終了となりました。
100%とは行きませんが、80%でなんとか折り合いをつけてこのままおさまることを願い、経過観察を続けたいと思います。
ここまでで、シロアリが蔓延してしまったお客様宅が、なぜそうした被害に遭われたのか、重なった悪条件などをあげてご説明致しました。
最大の原因は、『外断熱』と呼ばれる、今ではあまり見かけない外壁への断熱材の貼り方でしたが、ここからはその外断熱の話を軸に、建築業界において新しい技術を選ぶことのリスクについてお話し致します。
新しい技術の善し悪しとは
上記でも書きましたように、外断熱は現在ではあまり見ない工法の一つです。
断熱材が地面につくことがあり、地面の湿気を吸い上げたり、ひどいときは前回のブログのようなシロアリ被害などが起こったりします。そのため現在では少なくなったのではないのかと…。
しかしお客様が工事をした当初は、新しい工法で良い点ばかりを並べられていたのだと思います。
新商品や新しい技術が発表されると、なぜかそれがとても良いものに思えて試したくなるものです。
とはいえ、建築業界においては新しい技術や商品のすべてが良いものとは限りません。
みなさん『アスベスト』という素材を覚えていますでしょうか?
一昔前は、このアスベストを使った軽くて丈夫な屋根材が主流になっていました。
ところが2006年に健康被害や大気汚染などの観点からアスベストが規制され、屋根材にアスベストが使えなくなったのです。
軽くて丈夫で良い製品だと言われていたのに、いつの間にか使用禁止の材料となったアスベスト。
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今では解体工事の際には、アスベストの含有量について事前調査が必須となりました。これは2020年に義務化されています。
アスベストを含む屋根材は、今でも古いお宅の屋根に残っていることがあり、アスベストの吹きつけ工事なども行われている箇所は、除去が難しい状況です。
そのため、カバー工法などでアスベストの上から他の屋根材で覆ってしまう方が多いのですが、その場合はアスベスト含有したままの状態となるため、家の資産価値としては下がります。
除去も難しく、カバーしてもリスクのあるアスベストは、データの無い新しい建材を使用する怖さを表す代表的な例と言えるでしょう。
発表されては消えていく…そうした新商品が山のようにあるのが建材なのです。10年後に廃材になっているものが多くあります。
しかも、ただ消えるだけであれば問題ありませんが、必ずなにかしらのトラブルを引き起こすのです。
僕は、お見積もりの際にあまり新商品を組み込むことはしません。
なぜなら、現場で少なくとも5年ほどは動向を見守らないと、商品の善し悪しが分からないからです。
建築は、片道切符の考え方が多く、だからこそ現場の経験や実績が本当に大切となります。
これらの事を踏まえて、是非見積もりの際、お客様に考えて頂きたいことがあるのです。
相見積もりを取る時に考えるとよいこととは
業者によっては、相見積もりをとることをあまりいい顔をせず、「もしも今弊社に決めて頂けるのであればお値引きしますよ」などといって、お客様をせき立てるところもあります。
しかし、僕の場合は全く逆です。
相見積もりは、大いにやって頂いていいと思っています。
というのも、どんな家にもその家に合う工法というものがあるからです。
しかし、ここで間違えてはいけないことが一つあります。
それは安さ比べをすることです。
あくまでも、相見積もりで比べるのは工法や建材の使用方法であって、値段ではありません。
値段を比べ安いところを選ぶことは、正しい工事を選ぶ以前の話になってしまいます。
きちんと業者から説明を受け、工事の方法を理解し納得した上で、費用と見合った最良の方法を選ぶことが大切なのです。
家を人間に置き換え、考えてみて下さい。自分の体に切除しなければならない病巣があった時、手術する病院を安さで選びますでしょうか?
病院の設備や担当医の技術や経験、薬の臨床データなどから、自分の体が治る最短の道を探すはずです。
家も同じといえます。
つい、ネット上に悪質な塗装業者の例がたくさん紹介されているのをみて、工事費用をふっかけられまいとするあまり、値切ってしまうこともあるでしょう。
しかし、正規の業者に対してお客様が値切ったものはただの費用ではなく、職人の質であったり、工法や手順の省略であったりします。
なかなか、専門的な工事の内容を理解するのは難しいことです。
弊社では、お客さまにわかりやすいように、絵やHPや資料などを使ってご説明をします。
このブログも、ある意味ではそうしたお客様の理解の助けになればとの考えからです。
僕はお客様に工事の説明をする際に、良い効果のことだけではなく必ずリスクについてお話しします。
リスクを知ることで、このシロアリ被害のような結果を少しでも減らせるでしょう。
もしも外断熱の内容をお客様が正確に把握されていたら、シロアリ駆除業者に依頼することはなかったかもしれません。
今回は、工事を始める前に「状態によっては外壁を開ける箇所が増えるかもしれない」と事前にお伝えし、そのことによってお客様も覚悟をしていらっしゃいました。
お客様に覚悟を決めて頂いたからこそ、職人たちも「ここはシロアリの今後の被害が心配だな」というところに全て手を入れることができたのです。
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工事の結果が見えるのは早くても5年後、遠いと10年後……。
少しでも良い結果になるように、契約の瞬間までしっかりとリスクや工事内容を検討して頂ければと思います。
ネット上には、今日も多くの新商品が発表されていますが、できれば何年かは動向を見守り、慎重に材料や工法を選んで下さい。
そうすることで、数年後に「あの工事は失敗だった」と思うリスクから少しでも回避することができます。