みなさんは、なぜ工事に足場が必要なのかご存じですか?
工事を依頼される施主様で、足場が必要な意味を本当に理解している方は少ないかと思います。
なんとなく「塗装作業の足場として必要だから?」くらいで足場を考えていらっしゃる方が多いかもしれません。
実は、僕がお見積もりのためにお客様宅へ伺う際に、一番値段を下げてほしいと要望を受けるのがこの足場なのです。
足場の値下げ交渉をされるお客様のほとんどが、インターネット上にある甘い宣伝文句や格安の値段をご覧になり、「これくらいなら値下げできるだろう」と考えていらっしゃいます。
実はインターネット上で格安を謳う足場の多くは、塗装職人が専門の足場業者に依頼する足場には似ても似つかないものです。
また足場代を値切るということは、工事の過程だけでなく工事の仕上がりにもさまざまな副作用を引きおこします。
しかし残念ながら、足場を建てる際にはその差はほとんど感じられません。
そこで、さまざまな足場を例に出しながら、今回は足場について解説したいと思います。
高速道路下のつり足場は建設当時から計画されているもの
まずは、こちらの高速道路下に吊された足場をご覧ください。
幅の広い空中ブランコのようなものがたくさん連なっているのがお分かりになりますでしょうか。
これは、専門的なことを言うと足場業者では建てることができない足場です。基本的に『ビケ足場』というハンマーで部材を打ち込んで建てる足場を足場業者で、そしてこうした少々高度で特殊な『枠組み足場』を作るのがトビ業者となります。
危険で高度な足場を組むトビ職人だけが建設することができる『つり足場』。高速道路を建設する際には、将来つり足場を建てるための設備を予定して施工されます。
そうすることで、高速道路の点検時にこうして足場を建て、補修工事を行うことができるのです。
この足場は、工事が終了して約10年後に補修工事が必要になってから使うため、最初の10年ははっきりいえば不要の設備です。しかし、10年後にしっかりと補修工事をして、より安全な高速道路を守るためには無くてはならないものなのです。
このように、足場とはその瞬間的な足場工事だけを注目して建てるのでは無く、10年後、20年後を見据えて、その時に必要な工事を算出した上で建てなければなりません。
耐火シートで覆われた足場は火花、塗料が飛び散らない
次にご紹介するのが、こちらの耐火シート(防塵シート)を張り巡らした足場です。
この足場、内側はほぼ真っ暗なため工事の際には照明が必要となります。
しかしこのような道路の真ん中で大々的な工事を行う場合、火花が飛び散ったり塗料が飛び散ったりしては車や人が道路を利用できません。
そうした通行人や往来する車のことを考え、できる限りの対応をしたものがこの足場です。
足場は工事の質向上だけでなく、周りの環境にも合わせて考える必要があります。
足場に張るシートは、時には防犯のためで合ったり、お隣への配慮であったり、現場の職人が落下するのを防止するためであったりとさまざまな用途があるのです。
これからは、一つの工事現場を多角的に見ることができなければ予測することはできません。
足場は、工事をする現場の状況をしっかりと把握することも大事です。
マンションに建てる足場も予算によっていろいろ
マンションの足場は、みなさんがもっとも目にすることが多い足場かと思います。
しかし、この足場は同じように組んでいても、オプションによってその安全性や環境への配慮に違いがあるのです。
例えば、職人が歩く部分に幅木をのせるかどうかで職人の作業効率が変わります。
さらに、1階部分に網を張るかどうかで防犯性も変わるのです。防犯性とは、マンションの足場の場合、この足場を使って泥棒が入ることがあるために必要となります。現場によっては、足場にセコムなどの防犯装置を設定する場合も。
また、それぞれの階にメッシュシートを張ったり、足場を歩いた際に腰に当たる部分に手すり(中さん)を2本つけたりなど、足場の安全性をあげるためのオプションがありますが、格安の足場はこの安全性が下がります。
そして職人の稼働力も下がるのです。
塗装工事や建築工事をする際に、職人は両手を使います。
安全バーが1本よりは2本のもののほうが安定して両手放しで移動が出来ますし、幅木があれば歩く足元も安定し、それだけ作業効率が上がります。
またこれも見落としがちな点ですが、最近では足場の安全性基準が厳しくなり、基準に達しない足場では、労災などの保障が使えません。
けれども、安全基準に達しなくても足場を建てることはできるのです。保障が使えないだけ…。しかし安全性の低い足場では事故が起こりやすく、死亡事故につながります。
足場の安さを優先すると言うことは、ご自分の家で死亡事故が起こる可能性をあげることなのです。
足場代無料はあり得るのか?漫画で解説
屋根上に建てる足場の意味とは
こちらの写真、少し不思議な足場ですよね。
アーチ状になっていますが、どのような用途の足場なのでしょうか。
これは、屋根の笠木部分に挟むようにして足場を建て、ここに職人の安全帯をつけることで屋根上の作業を保障します。
他にも、ネジなどアンカーを打ち込んで建てるタイプのものもあり、どれも屋根上での安全を確保するためのものです。
屋根上は、見ているよりもずっと危険な作業現場であり、ここの足場を建てないことは自殺行為です。
たまにお客様から「ちょっと上に乗って作業してもらうことはできないの?」と聞かれる場合がありますが、どんなに能力のある職人だとしても、安全対策もせずに命をかけて作業することはできません。
安い足場は危険な足場
最後にご紹介するのは、いわゆる単管足場と今にも崩落しそうな鉄骨階段となります。
単管足場は、塗装会社が足場業者に依頼せずに自社で簡易的に建てる場合にみかける足場です。
この足場は、事故が起こった場合に労災がおりません。
また足場に安全帯をかけたとしても、足場の構造上宙づりになってしまいます。
僕としては、絶対に乗りたくない足場です。
そしてこちらの写真……。
今にも落ちそうな鉄骨階段を、足場で支えてあります。
本来足場は、建物を支えるものではありません。
つまり、この足場はかろうじて鉄骨階段を支えていますが、いつ崩落してもおかしくない状態なのです。
先日も、八王子で鉄骨階段の崩落事故が。
この事故は、施工が設計とことなり鉄骨階段の連結部分に木部が使用されていたり、防水加工が不十分だったりしたがために起こった事故でした。
鉄骨階段が崩落する…とお伝えしても、あまり現実には起こらないことのように思ってしまいますが、実際の事故としてこうして起こるのです。
安さに目がくらんで、安全性をないがしろにすることは、大きな悲劇へとつながってしまいます。
こちらで詳しく足場について説明
もう一度確認したい足場の重要性
お客様宅へお見積もりに伺った際に、足場を建てることを嫌うお客様がいらっしゃいます。
しかし、足場を建てなければ十分な施工はできませんし、安全性を守った足場でなければもしもの時に労災も使えません。
僕のこれまで担当したお客様においては、安さを追求されるお客様は、追加工事が増え、トータル的に高額な工事になってしまう方が多いです。
足場は10年後を考え、そして工事をする際の周囲への影響を考え、職人が安全で十分な力を発揮できる環境を作り、リスクマネージメントすることで最終的に最高の工事をする基盤となります。
足場を建てている期間には足場の効果を感じられることはほとんどありませんが、3年後、10年後に必ず効果があります。
人間の体も同じですが、体を壊して初めて日々の体管理の大切さを実感します。
健康でいる間には気がつけないものなのです。
僕としてはお客様がひどい目に遭う前に、足場を軽視したことによって引き起こされる影響をお伝えしたいと思い、今回はお話しさせて頂きました。
足場に安さを求めないでください。
足場の安さは現場の安全性を下げるだけでなく、工事全体、そして10年後の家屋のクオリティを下げます。
1本手すりを減らすことは、ただ価格が下げるということではありません。
必ず1本手すりを減らしたことで、工事や仕上がりにさまざまな副作用がでます。
足場こそ、しっかりと費用をかけ、先の先まで見通した上で計画をたてることがなによりも必要なのです。
私の尊敬する、昔お世話になった現場監督は必ず、朝、ガードマンに挨拶にいってました。「ガードマンは現場の顔だから!」とよく言っていました。
なんでも始まりと終わり、原因と結果全てに因果関係があります。「足場がしっかりして塗装工事も良い仕事」になります。いわゆる「ワンチーム」です。どこかをないがしろににすれば必ずそのつけは「どこかに」きます。「足場を固める」という意味でも良い足場は必須です。