これまで何度か、塗装工事や雨漏りの補修工事には必ず副作用があるとお伝えしてまいりました。
塗装工事の良い点はネット上にも情報が溢れているためお客様に伝わりやすいのですが、僕がお話しするいわゆる副作用である悪い点については、なかなかご理解いただくことが難しいようです。
なんとか雨漏りについての正しい知識を、皆さんに届けるすべは無いかといつも考えています。
ですので、今回も雨漏りについて事例を元にしながら、丁寧にお話しすることにしました。
塗装工事は、病院で体の悪いところを治すことと同じで、一度雨漏りしてしまうと100%元の状態にもどるということはありません。
傷が残ったり、副作用が出たり、最悪の場合はただの延命措置だけで直せないものもあります。
また雨漏りの補修工事は、プロだから必ず直せるわけではありません。
むしろ、僕は防水工事のプロ、雨漏り工事のプロだからこそ「直すことができないかもしれない」ということを知っています。というのも、本当に水はあらゆるところから侵入をするからです。
ネットに溢れる「雨漏りを必ず直せる」というのは、90%以上が嘘だといえます。
残り10%未満くらいは奇跡と偶然で直せることはあるかもしれませんが、僕としては「雨漏りを直す」ではなく、「雨漏りと共存する」と考えていただけたらと……。
そして、最近2軒ほど続いたのですが、担当した家がどちらも某大手住宅施工会社で建てた家でした。両方とも施工不良が原因です。
ここからも分かるように、大手の施工でも雨漏りはさまざまな要因で起こります。
つまり、それだけ雨漏りというのは家につきもので、原因も千差万別なのです。
今回はそんな雨漏りについて、某大手住宅施工会社の施工不良や、雨漏りとの共存、一筋縄ではいかない水の浸入経路などお話しいたします。
あらゆる角度から雨漏りを検証し、是非みなさんに雨漏りの実態をご覧いただけければと思います。
施工不良が招く不具合とは 1
まずはこちらの家をご覧ください。
モルタル系の壁なのですが、お客様宅ではアクリルリシン吹付の壁に細かく入ったクラックから雨水が侵入し、不具合が発生していました。(ただ外だから雨漏りとは言わない)
理由は、水切とモルタルの間に隙間がないことで雨水が壁内に溜まってしまったのです。
通常、サイディングボードタイプの壁の場合、透湿紙と壁の間には隙間があり、壁のクラックから侵入した水は壁中に浸入したとしても透湿紙に当たり下へと流れ落ちていきます。
そして、壁の下にある排出口から水が出ていくのです。
しかし、モルタルの場合、壁を吹き付けて行くため水切とくっついてしまいます。
それにも関わらず、こちらの家を施工した施工会社は、水の排出部分に壁を吹き付ける前にガムテープで補強し、隙間を作ったので水は必ず排出されるのだと言うのです。
雨漏りの理由は塗装したことで、塗料が排出口を塞いだからだと……。
もちろん理論上は、水切の上に絶縁体のようにガムテープをかませ、壁を吹き付け、乾いた後にガムテープを撤去すれば隙間は空くでしょう。
ですので、施工会社に言われたとおりに排出口を塞いでいるとされる塗装にカッターで切り込みを入れて壁と透湿紙の間に隙間があるかどうか調べたところ、なぜか壁中で撤去されたはずの緑色のガムテープがべろりと出てきました。
つまり、施工時にきちんとガムテープ撤去をせずにいたために排出口は塞がれ、不具合の原因となっていたのです。
本当に些細なことではありますが、ガムテープ一枚撤去をしなかったことが不具合の原因でした。
この場合、外なので雨漏りとは言わない。
※参考写真:現在の建て方のトレンド
通気ラス網(モルタルの剥落を防ぐための下地材)を使用してモルタル施工をする。
水切りとモルタルの間に隙間が無い。
施工不良が招く雨漏りとは 2
次にご紹介するのは、パラペット部分の笠木についてです。
こちらのお客様は中古住宅を購入されたのですが、家の中が雨漏りから来るひどいカビで悩んでいらっしゃいました。
何度もハウスメーカーや施工会社に相談をしたのですが、雨漏りがおさまることはなかったそうです。
そこで、まったく外部の業者である塗装職人へご相談下さったのでした。
お客様宅へ伺って、雨漏り部分を拝見させて頂いた結果笠木を触った際に、笠木の下に手をいれてみたところ、ここがあやしいことに気がつきました。
しかし疑わしいだけで、本当にそこが原因かはわかりません。
それでも、お客様は僕を信じて笠木を開けることを含めた工事に踏み切って下さったのです。
結果は見事大当たり。
本来であれば笠木下の木の部分に防水が巻き付けてあるはずが、ケイカル板を土台として置いて板金で加工した笠木が乗っているだけ。
要は木の上に水よけの屋根をのせただけの状態。上からの雨にはかろうじて対応しますが、横から吹き付ける雨には防水効果がありません。
また、写真に見える黒いシートと屋根(パラペット)の立ち上がり部分の防水処理は相性が悪いものの、本来であれば一体化させて横から吹き付ける雨にも対応できるようにします。
ですがこの笠木部分は木が丸出しで、パラペット部分から毛細管現象で吸い上げられた水が中に染みこみ放題になっていたのです。
それですので、浸透した雨水が壁の中に染みこみ壁が膨れ上がり、上記写真のようにまるで内側から破裂したかのような状態に……。
笠木の防水処理は、防水工事をする職人であれば当たり前のことです。
大手施工会社であっても、このような信じられない施工ミスを起こす場合があります。
今回、こちらのお客様は笠木を外す英断をしたことで、元の施工会社へ施工ミスであることを通知し、無事工事代金を全額支払ってもらえることになりました。
本当にこれはまれなケースではありますが、お客様が塗装職人を、そして僕を信じて笠木を外して中を確認したことで、このような結果へとつながったのです。
雨漏り修理の防水工事、新築時の欠陥が原因!? 参考動画です
家の基礎 ここから始まる雨漏り対策
雨漏り対策は、何も新築の仕上げや再塗装の時にだけするものではありません。
基礎を築くときから、壁の内側に浸透した雨水をどう逃がすのか…ということを考えなければいけないのです。
写真は、家の基礎部分なのですが、コンクリートで出来た基礎の上にボードが張られているのですが、ボードと基礎の間に黒く細い網状のものがあるのが見えますでしょうか。
これは基礎とボードを直接つなげてしまいますと、いわゆる「ベタ基礎」という状態になり、雨水が毛細血管現象で地面に面した基礎部分であるコンクリートから吸い上げられてボードに水が広がってしまいます。
これを避けるために、ボードと基礎の間を浮かせてあるのです。
仕上げるとこんな感じになります。
しっかりと壁に水が伝わるのを防ぎ、さらには雨漏りを防ぎます。
こうしたしっかりとした工事によって、雨漏り対策は始まっているのです。
話題の鉄骨階段 錆びの進行を遅らせために
次はこちらの鉄骨階段をご覧ください。
よく見ますと…ステップ部分に穴が開いて下に雨水が白糸のように落ちているのがお分かりになりますでしょうか?
これは、雨水などがステップに溜まらないようにするために、ステップに穴を開けているのです。
階段の下を通った人は、階段からジョウロで流したような水が流れ落ちてくるので驚くことと思いますが、この小さな穴によって鉄骨階段のステップに水が溜まることを少なくし、鉄骨が錆びる速度を落としてくれるのです。
小さな工夫ではありますが、鉄骨階段を持たせるために非常に有効な手段です。
これもまた、雨漏りや雨による鉄骨の腐蝕を防ぐためにとても重要な施工方法といえます。
雨漏りの怖さを知るからこそ付ける小さな水抜きパイプ
最近町を歩いていて、関心をした水抜き穴です。
これもまた、雨漏りを大きくしないための小さな工夫です。
壁の内部に水が入り込む可能性を考え、壁内の水が外に排出するための小さな水抜きパイプを施工しています。しかし壁に取り付けると不格好さがでるため、極力目立たぬ位置に取り付けてあり、本当に心が行き届いた施工だなと思いました。
こうした不格好だけれど、雨漏りを避けるためにとられた手段は、壁の行く末を大きく左右します。
水の怖さを知っているからこその、職人技なのです。
水が入り込むのは上からだけではない だから予想がつかない雨漏り
雨は空から降ってきますが、必ずしも上から水が浸入するわけではありません。
この写真からも分かるように、ブロック塀の黒ずみは至る所から起こっています。
ある水は毛細血管現象で地面から水が這い上がってきますし、上から落ちてきた水は横へ下へと広がり、さまざまな箇所からブロック塀内部へ侵入します。
家の壁や屋根でも同じことが起きているのです。
雨漏りは、そのほとんどが侵入した水の出口がなく、同じ箇所に留まったために内部を腐らせ雨漏りになります。
水が予想もつかない場所から入り込みますからこそ、雨漏りを100%完璧に直す方法はないのです。
先日も他社さんでベランダを剥がし、屋根に上り雨漏り箇所を探した後に、塗装職人にご依頼を頂いたお客様がいらっしゃいました。
偶然にも、僕がお伺いした際に雨漏り箇所を見つけたのですが、なにもこれは前の業者が悪いわけではありません。
前の業者が徹底的に考えられる雨漏り箇所を潰しておいてくれたから、僕が雨漏りの原因箇所を探すことができただけ。雨漏りはそれだけ予測不能なものなのです。
僕が担当した雨漏り工事の記録動画です
家によって違う いろいろな雨漏りを補修するために
雨漏りの原因探しは、藁の山から針を探すようなものです。
家の建て方には、施工会社や大工によって違いがありますし、モルタル壁やサイディングボードによっても雨漏りの起こり方は変わります。
さらに家の立地や環境など、さまざまな要因から雨漏りは始まるのです。
インターネットに掲載されている雨漏りの原因は、氷山の一角にすぎません。
だからこそ、本当に雨漏りを修繕したいのであれば、工事内容を相談する営業や職人の話に耳を傾けて、そしてささいなことでも家に関することは全て私たち塗装職人にお聞かせ下さい。
お客様のご協力がなければ、僕たちは家のこれまでの施工内容は分かりませんし、壁一枚触ることはできません。
雨漏りを100%修繕します!とは、雨漏りの怖さを知っているからこそ言えませんが、いつも「雨漏りをどうにか直したい」という思いでお客様の元へと伺います。
疑問や不安は何回でもご質問下さい。
何度でも、塗装職人の知識を持ってお答え致します。
雨漏りの怖さを知った上で、是非一緒に雨漏りに立ち向かいましょう。