もくじ
私たち塗装職人では「一級塗装技能士が必ず施工をします」というフレーズをよく使います。それは必ずしも自分たちにとって営業上都合の良いということだけでもありません。もしも遠い親戚の人に塗装会社を紹介するとしたら、必ず社長が一級塗装技能士で、職人にも何人か一級塗装技能士がいる会社を薦めます。
それはなぜか。技術、マナーなどが備わっている職人がいる会社ということが想像しやすいからです。
いつもであれば、さらっと書く内容ですが、今回はより深く一級塗装技能士の資格の話や、職人のマナーについて書ければと思います。
また、ネット上での塗装業者の実態と、それを見極めるための塗装技能士資格の確認の仕方などもお話し致します。
外壁塗装の施工には国家資格や自治体が認可する信頼性のある免許が不要
外壁塗装の施工業者には、国家資格や自治体が認可する信頼性のある免許が不要です。したがって、どんな人でも業界に参入できるのが現状です。これに対して、一級塗装技能士の資格は国家資格であり、厳しい試験をクリアする必要があります。技術と知識が認定された職人であることが保証されるため、信頼性が高いです。
外装劣化診断士・雨漏り診断士などの民間資格との重要性の違い
また、外装劣化診断士や雨漏り診断士などの民間資格も存在し弊社スタッフも持ち合わせてはいますが、これらは比較的短期間で取得できるもので、国家資格に比べると取得の難易度が低いのが実情です。一級塗装技能士のような国家資格とは異なり、民間資格は一定の知識を持っていることは若干多程度証明はするものの、現場でお客様に本質的な疑問を解消するうえで必要な技術面のスキルはないに等しく、その信頼性や価値は国家資格には及びません。そのため、塗装業者を選ぶ際には、国家資格を持っているかどうかを確認することも重要になってきます。
一級塗装技能士を取るための様々な壁
最初にまず、私たち職人の状況からお話ししたいと思います。私たち職人は、様々なバックグラウンドを持っています。体を動かして仕事をすることが得意な人が多く、勉強が苦手な場合もあります。
そのため、資格取得のために勉強するのは大変な挑戦です。しかし、現場の仕事が終わってからも努力を続け、「絶対にこの資格を取って、塗装を極めるぞ!」という強い思いで取り組んでいます。
また仕事を休んで講習を受けに行かねばならず、それも生活としては大きな負担となります。講習代も馬鹿にはなりません。
学科試験に必要な教科書
また、一つ大きなポイントとして、実はこの一級塗装技能士の資格、これまで一般的についていえばあまり給与アップは中々望めないのです。
資格としては、国家資格ではあるのですが、特段手当てなどが決まっている資格ではないので、給与アップなどはしないため、資格取得の目標を「給与が上がること」にはできないのです。
さらにこの一級塗装技能士を取るためには、もう一つ大きな壁があります。
それは実技試験です。
学科試験用の勉強は、過去問を解き、講習を受ければなんとかなるのですが、実技試験はそうはいきません。
実技はケガキ線、パテ、調色、吹き付けと、戸建ての塗装現場ではあまり使われない特殊な技術も多く出題されます。
もちろん、通常の現場で使うような技術も試験内容としては出るのですが、あくまでもそこは基礎的なところで技術は自分で練習しなければなりません。
戸建ての現場であまり使わない技術なので、当然勤めている会社にこうした材料や道具もありません。
ということは、これらの道具を自分だけのために手配をかけ、リースし、塗料や塗りつけるための板なども自分で用意しなければならないのです。
実技試験の調色セットと刷毛やへらなどの道具一式
実際代表の曽根がこの試験を受けた時は、自宅に1m80cmの板を5枚も持ち込み、家でできる実技練習をなんとかやってみたりしました。
でも吹き付けなどは、コンプレッサーという機械がないと練習することができず、また機械も大きく音もすごいので自宅では使えません。
それなので、倉庫などの場所を借りて練習する以外ないのです。
塗装技能検定試験の試験科目及びその範囲並びにその細目
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/syokunou/ginou/aramashi/dl/syokusyu_115.pdf
板や道具を買い、コンプレッサーをリースし、倉庫を借りる。
一口に実技試験と言っても、これだけの練習と準備が、そしてお金が必要です。
代表が試験を受けた当時は、著名な塗装会社の下請け業者として働いていました。
でも自分の勤めている会社には倉庫が無かった為、知り合いの一級塗装技能士資格を持っている業者のところで倉庫を借りて、時にはアドバイスをもらいながら練習をしました。
普通の塗装会社では作業ができるような倉庫を兼ね備えているところが少なく、この時も倉庫を借りるのに苦労をしました。
しかも、これらをすべて仕事が終わった後に一人で準備して行う…。生半可な気持ちでは取り組めません。
技受験申能検定請書
試験を受けるための、書類申請の手続きも普段あまり取り寄せたことの無いような書類を揃えなければならず、仕事の合間を縫って書類をかき集めるだけでも時間がかかってしまいます。
申請場所は行政下の管轄なので、このような書類は完全でなければならず、届けの出し方などなど、普段こうした書類仕事から遠い場所にいる職人としては、書類申請の段階で投げ出したくなり、実際この時点で挫折してしまう人もいるようです。
一級塗装技能士の資格について
では次に、一級塗装技能士とは、どのようにして受けるのかご説明致します。
一級塗装技能士は、年に1回、毎年9月に行われる試験で、学科に1日、実技に1日試験日が設けられています。3月上旬に詳細が発表され、4月上旬から中旬までの間に試験の申し込みを行います。
学科と実技はそれぞれに合格ラインがあり、学科に受かったけど、実技に落ちた場合などは、翌年以降に学科の合格は持ち越すことができ、学科試験は免除されます。
逆ももちろん可能で、実技に受かればそれも翌年、翌々年…と実技は免除となり、学科だけを受ければ大丈夫になります。
※こちら令和3年の試験情報です。
弊社の職人も、受かった学科を2年持ち越して3回目で実技に合格をしました。
合格までには用意周到な準備と絶対合格してやるという粘り強さの精神が必要です。
ただ新型コロナウイルスの影響で、2020年の試験は中止になってしまいました。
実技試験のケガキ線
講習は6月くらいに行われ、厚生労働省の 職業能力開発協会が指定する組合が実施しています。
都内であれば、日本塗装工業会や、東京都塗装工業協同組合(東塗協)。
神奈川であれば、神奈川県塗装協会などが行っています。
他にもそれぞれの都道府県にて、担当する協会や組合が講習を行っています。
こちらの動画は塗装科・職業訓練指導員の原本職人を講師にして塗装職人が自主的に行っているものです。
試験の合格率としては、50%前後。
大体の人は、2回ほど試験を受けることが多いようです。
昔は検定委員と仲良くすれば合格率もあがるという噂も各方面でも聞いたことがあります。
1年に1回しかない試験だからこそ、落ちてしまうとまた来年まで受けることができず、合格するまで数年かかる場合もあります。
資格内容としては、塗装に関する技能を認定する資格で、一級はその中でも塗装の技能、知識ともにトップクラスであると言えます。
合格すれば、有料にはなりますが希望者には「技能士カード」も発行してくれます。
有機溶剤主任者や講習をすれば取得できる民間資格と違い、国家資格なのので合格のうれしさはひとしおです。
合格当初の代表の感想は、厚生労働省の【技のとびら】のサイトにも掲載されているので参照してみてください。
一級塗装技能士と、二級塗装技能士の違い
ここまで、一級塗装技能士について説明をしてきましたが、では二級塗装技能士はどのような資格なのでしょう。
実はこの一級塗装技能士と二級塗装技能士ですが、英検などのように一級ずつステップアップしながら取る人は少ないです。
同じ「塗装技能士」という資格ではあるのですが、塗装技能士の一級と二級では、合格証書を交付する場所が違います。
一級塗装技能士は国である厚生労働大臣から合格証書が交付され、二級塗装技能士は各都道府県の知事から合格証書が交付されます。
あまり他の資格ではみない形式なのですが、一級と二級では認可しているところが違うのです。
二級塗装技能士は都道府県認可の資格で、一級塗装技能士は国家資格となります。
そのため、それぞれ別のものとして受験する人が多いようです。
二級塗装技能士は、受験資格が実務2年以上、もしくは職業能力開発協会が管轄する職業訓練学校などに通いながら取得することが可能です。
一級塗装技能士に比べると難易度は低いものの、二級塗装技能士も塗装の技能をきちんと修得しないと取れません。
技能士カードはオプションとして発行されるものですが、金バッジの技能士章は合格すればもらうことができます。
一昔前は、塗装屋の2代目などが職業訓練学校に行って二級塗装技能士の資格を取り、それから家業を継ぐ…などということが多くありました。
通常であれば、二級塗装技能士のすぐ上の資格が一級塗装技能士…のように思いますが、一級塗装技能士は国家資格のため、学校に通っただけでは取ることができず、二級塗装技能士とはかなりグレードの異なる資格となるのです。
後編は塗装指導員について
ここまでは[一級塗装技能士について]お話してきました。
後編では一級塗装技能士の上位資格でもある[塗装指導員]についてお話しておりますので、こちらもチェックしてください。
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