もくじ
私(松尾)はこれまで、このサイトで様々な雨漏りのケースや、水の怖さをお伝えしてきました。
今回は防水のプロとして、一歩進んだお話をさせていただきます。
この記事では、雨漏りの怖さ、雨漏りの発生を予測することの難しさ、そして場当たり的な対応にせずしっかりと補修するために必要な考え方について、ご紹介します。
雨漏りによるサビは予想もしない事態を引き起こす
これまでも水に蝕まれた鉄柱やフェンス、陸屋根の笠木、歩道橋などご紹介してきました。
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今回ご紹介するのは、その究極です。
それは、こちらの建物。
これ、どういう状況かお判りになりますでしょうか?
この建物はもともと鉄骨の外階段があるタイプの建物だったのが、鉄骨階段が崩れ、2階部分には行くことができなくなっています。
この建物の有様は、まさに鉄の錆がおこす末期症状といえる状態です。
しかもこの建物、驚くことにまだ人が住んで生活をしていらっしゃるのです。
鉄骨階段を取ったままにしているのには、いろいろな理由や事情があるかとは思いますが、だれも使うことができず、取り残された2階のドアが非常にもの悲しく見えます。
この例のほかにも、つい家の修繕や補修などを後回しにしてしまったがために、どうにもならない状況に陥ってしますお客様がいらっしゃいます。
「自分はここまで放っておくことはないから大丈夫」と思いこんでしまうかもしれません。
ですが雨漏りや水による鉄錆びは、最初は小さなほころびなのですが、ある日突然予測できない形で事態が悪化します。
鉄部が錆びてしまっている階段への、補修工事の動画です。
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予測不能な雨水の行先
雨漏りを引き起こす雨水の挙動は、予測不能です。
思わぬ場所から侵入してしみ出す雨水
実例として、こちらの擁壁をご覧ください。
この擁壁、国道に沿った歩道わきに延々とあるのですが、擁壁のところどころから地下水や雨水が漏れ、歩道にまであふれだしています。
さらには、歩道を通過した水が道路にも染み出ている状態です。
夏場はまだいいのですが、冬場は朝方などに強い冷え込みがあると、この染み出た水は氷になります。
凍った水は、アイスバーンとなり歩行者の多くがすべって転んだり、自転車や原付バイクが横転したりする原因に…。
ですので、この曲がり角でもなんでもない歩道と道路が、冬になるとスケートリンクのようになってしまう場所もあります。
もちろんこの擁壁はきちんと施工をしていると思いますので、よく見ると水の抜き口も作ってありますし、工事として不足ないと思います。
でも、水は思い通りにならないのです。
予想外の箇所から水が噴き出し、よりにもよってちょうど排水溝が途切れた部分から歩道に溢れています。
せめて、この歩道脇の排水溝に水が落ちていたら、こんなに頻繁に冬場の事故が起こることはなかったでしょう。
それでも、人間の予想をはるかに超えて水は障害を起こすのです。
全ての把握は難しい前提で対処する
たとえば水は、ある時は流動する液体、ある時は空気中に浮遊する気体、そしてある時は固体である氷と形を変えます。
水や氷もやっかいですが、さらにやっかいなのは気体です。
スチーム状になった水は、もはや人間の目には見えず追うこともできません。
気体となって上昇し、そして壁などにあたり冷やされそこで初めて水として姿を見せる。
水とは、まさに神出鬼没なオバケのような存在なのです。
こちらは、長年原因が特定できずにいたお客様の雨漏りを解決した例です。
赤外線カメラなどでも原因が特定できず、物理的な調査に切り替えました。
結局は、新築時からあった外壁と笠木下の取り合い部の防水処理の不備を確認、思わぬ場所からの水の侵入が原因でした。
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台風の時などの増水で、マンホールのふたが吹っ飛んでいる映像などもよく見かけますが、あれも水の脅威の一つです。
小さな雨粒が、集まったことで施錠されたマンホールのふたを吹っ飛ばすほどの力を持ちます。
マンホールの設計者としては、考えもしなかった事態ではないかと。
この擁壁も、施工した業者からすれば、「ここに水が出るはずではなかった…」と思っていることでしょう。
様々な施工や設計の専門家たちの予想をはるかに超えてくる水は、本当に手ごわい相手なのです。
防水業者が何度工事をしてもまた時間が経てば雨漏りが再発という繰り返しす話は決して珍しいものでもありません。
家全体のリスクをバランスよく管理する
雨漏りに悩まされているご家庭ごとに原因があります。
立地自体の問題で起こる雨漏りや、その家を建てた施工会社のクセよって起こった雨漏り、外的要因の雨漏りなど様々です。
そのすべてをパターン化して、画一的な方法での補修は難しい。
だからこそ、雨漏りを完全に止めようとするのではなく、家全体と調和させながら、雨漏りを起こす水の逃がし方を考えなければなりません。
物事というのは、見る角度によってさまざま面があり、ある意味いい面と悪い面は表裏一体になっています。
雨漏りもそれと同じです。
雨漏りの一面だけをとらえ、原因と思われた雨水が入り込まないようにしたことで、一時的に雨漏りが止まったとします。
でもその工事によって水の出口を塞いでしまい、それが原因で逃げ道を失った水分が内部を腐らせてしまう…などということもおこりうるのです。
僕が大変お世話になった方が、よく言っていた言葉を紹介します。
「お前だけが担当箇所の工事を完璧にやっても仕方ない。お前ひとりの現場じゃないんだ。
全員で様々な工事して、すべての箇所でトータル85点が取れる工事をすることが最も重要なのだ」と。
家の一部だけ、100点満点の工事をしても仕方ないのです。
家というのは、さまざまな技法が重ねられて建つので、良い効果を狙った建材が、別の箇所の不具合を生むことも。
家全体がトータルで85点取れる工事をしてこそ、家のさまざまな箇所に余裕がうまれ均衡を保つことができます。
家全体のリスクをバランスよく管理する、リスクマネジメントが大切なのです。
リスクを管理しながら、最小限に抑えることで調和をさせる。雨漏りへの対応も、ここにポイントがあると僕は考えます。
建物全体の特長を把握したうえで対策することが重要
よく間違った雨漏り対応をする業者の中に、勘を頼りに我流で挑んだり、経験だけを優先して全体を把握しない業者がいます。
確かに万に一つの可能性で勘が当たれば、100点の工事ができるかもしれません。
しかし雨漏りという1点だけしかみていない補修は、数年後に家全体からの歪みが表面化し、また別の不具合が顔をだすことでしょう。
家の立地のクセや、さまざまな条件を加味して、経験とデータを踏まえながら雨漏りに挑む。
そして、家全体をトータルで把握することで、初めて雨漏りと良い付き合い方ができるのです。
リスクを無くすのではなく、調和させることで家を持たせるのです。
先に紹介した鉄骨階段が落ちてしまう建物の状況は、どの家でも起こります。
どうか、目を背けず隠れ雨漏りが無いか、よくよく家の中で目を凝らして耳を澄ましてみて下さい。
少しでも何かの予兆や、前回の塗装から10年経っているようであれば一度、信頼できるプロの業者へご相談下さい。
雨漏りと上手く付き合っていくことは、家を守ることへとつながります。
家は、人間が健やかに暮らすために何よりも大切なものです。
だからこそ、家まるごとの良い面も悪い面も正面から受け止めて、家を長持ちさせましょう。